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大阪駅の「性的広告」で再び燃え上がる論争の行方について

2022/12/02

炎上に耐性がついてきた

 なかばワンチャン狙いの業者にいいように利用されてしまうことも多いフェミニズムの問題はあるわけですが、広告会社も広告を出す事業者も媒体となる公共機関も、ネットでの炎上に対してかなり耐性がついてきたなあというのがあります。

 今回はJR西日本コミュニケーションズ社が矢面に立って、あくまで「ご心配をおかけして申し訳ない」としたうえで、表現については広告会社が内々で運用しているガイドラインに基づいて修正を重ねてきていたので「問題ない」と一蹴する形となっています。事実上の門前払いで、まあ当然そういう対応になりますね。

「性的だ」と批判の大阪駅広告、代理店「修正重ねており、問題ない」「尾辻氏に申し上げることはない」弁護士ドットコムニュース 
https://www.bengo4.com/c_18/n_15331/

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好きではないものも消極的に容認するべき?

 要は、オンブズマンや弁護士がシンポジウムやるから関係者にヒヤリングさせろとか、抗議メールに対して釈明と撤回を求めるなどと言われても、かなりの場合、公式サイトでの塩対応はおろか、上記のような門前払いか完全に無視するようにすらなっています。相手にして燃料を与えても問題が引き延ばされて損害が出るだけで、誠実に対応したところで袋叩きにされるだけなので利益がないと世間的にかなり理解されるようになったということでしょう。

 また、ここで「ネットで炎上している」などと言っても、結局はほとんどがTwitter上での話であり、この「炎上」を報じるネットメディアもJ-CASTやねとらぼ方面のネット話題系の媒体か、ハフポストやAERA、東京新聞、日刊ゲンダイなどリベラル系媒体が定番であって、一部の熱心な読者以外は1週間もすれば忘れるので「無視して構わない」と学んだ人たちほど無視するようになってしまったわけです。

 他方で、いくら広告主も代理店も掲載媒体もネット炎上に慣れてビビらなくなったとはいえ、やり過ぎたらアカンということで、センシティブな広告についてはそれなりに対応の仕方をアップデートするようになりました。萌え絵であれジャニーズ系であれ韓流アイドルであれ、性の商品化の問題は、単にゾーニングで対応したり、ガイドラインを厳格運用したりしても、人の目につくところで低きに流れることは起き得ます。これはもう、そういう環境において何を貴び、尊重し、何を守るかですよ。

 親として子どもたちを守るためにアドブロックを入れたりすることは仕方ないとしたうえで、多様性を受け入れるというのはNot For Youへの寛容性を高めることだ、好きではないものも消極的に容認することだと思います。

 そして、これこそが、不愉快なものも受け入れる、という共存の姿勢であり、社会の分断から文化や価値観の多様性を守る一歩になるのだとも感じます。喜ばしくない表現も、誰かにとっては価値のあるものだからこそ目に触れるわけで、Not For Youのものを見て「けしからん」とか「不適切だ」と噴き上がる前に、一拍置いて冷静になることの大事さを、今回の問題は改めて教えてくれている気がします。

大阪駅の「性的広告」で再び燃え上がる論争の行方について

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