「よっぽど追い詰められていたのでしょう。被告がとにかく憎いです」
好意を寄せていた女性から拒絶されれば、それが殺害のトリガーになりうるのではないか——法廷にいてそう思ったのは私だけではないはずだ。だがその後の裁判で、“出禁発言”が争点になることはなかった。
たしかに真優子さんと宮本被告のLINEのやりとりを見ても“出禁発言”を裏付けるようなやりとりは残されておらず、検察もこの証言を宮本被告の殺害動機と結び付けることは困難だと判断したのだろう。しかし由美子さんは、真優子さんのこの発言の重みをこう語る。
「本来まゆっちは、好意を寄せてもらっている本人にそこまできっぱりと伝えられるタイプの子ではないと思うんです……。よっぽど追い詰められていたのでしょう。被告がとにかく憎いです」
懲役20年の判決を下した大寄淳裁判長は主文でこう述べている。
「被告人に被害者への好意や強い執着があり、他方、好意がそのまま被害者に受け入れられなかったことが本件犯行の動機に関係しているとみられる。もっとも、本件犯行前の約3か月間につき、被害者が被告人を拒絶するなどの意思を示した客観的な証拠がないことや、被告人が本件当日に本件店舗でもてなしを受けた際に異変がみられないことなどもあり、それがどのように被害者への殺意に結びついたのか、立ち入って断定することまでは困難である。ただ、いずれにしても、被告人が本件犯行の犯人であるとの認定を妨げるものではない」
裁判を通じて、一部上場企業である住友電気工業のエリートサラリーマンだった宮本被告の素性はまったく見えてこなかった。法廷での被告は、稲田さんへの好意のみならず、彼自身の家族=プライベートについて一言も発信しなかった。
ところが裁判が終わった日の夜、私のSNSに一通のダイレクトメールが届いた。
差出人は、宮本被告の元同僚だった。