1ページ目から読む
2/3ページ目

オフィシャルソング「明治百年頌歌」は隠れた名曲

 「明治百年記念式典」では、場内の雰囲気を盛り上げるため、NHK交響楽団(指揮・近衛秀麿)によって、雅楽の「越天楽」、バッハの「G線上のアリア」、ヴァーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の前奏曲、ヘンデルの「王宮の花火の音楽」などが演奏された。

 本当は、当時の日本人音楽家の作品を用いたかったようだが、選曲が難しかったため、雅楽とクラシック音楽に落ち着いたという。

指揮をとる近衛秀麿(写真は1937年のもの) ©文藝春秋

 とはいえ本稿では、同じく式典中に合唱された「明治百年頌歌 のぞみあらたに」に注目したい。これは、政府が制定した明治100年のオフィシャルソングである。

ADVERTISEMENT

光あり 誇りあり ここに百年
ふりかえる 明治のあゆみ
このくにの いやます栄え
うけつぎて さらに進まん
 われらわれら
        のぞみあらたに――
(全3番中の1番)

「明治百年頌歌」の歌詞は一般より懸賞金(入選30万円、佳作3万円)つきで募集され、4113点の応募作のなかから滝田常晴(富士製鉄釜石製鉄所勤務)の「のぞみあらたに」が選ばれた。入選歌詞は、審査委員のサトウハチローと勝承夫によって補作され、完成した。

「大東京音頭」から「釜石製鉄所所歌」までを作詞

 国民的な関心をうながすため、歌詞をこのように懸賞公募するのは戦前からの伝統だった。

 滝田はアマチュアの作詞家でもあり、戦前には東奥日報社が募集した「出でよ少年飛行兵」、戦後には東京12チャンネル(現・テレビ東京)が募集した「大東京音頭」などでたびたび入選したほか、「富士製鉄社歌」「釜石製鉄所所歌」「熱技術課課歌」など多くの組織歌も手がけた。

 いっぽう「明治百年頌歌」の作曲は、プロの作曲家である外山雄三に依頼された。

外山雄三 ©文藝春秋

「明治百年頌歌」は隠れた名曲なのだが、今日では聴く機会が限られていて惜しまれる(国会図書館で視聴可能)。外山は1983年に「日本国憲法」第9条の条文を盛り込んだ混声合唱組曲も作曲・発表しているが、明治150年の今日ではイデオロギー的に対極のものとなってしまった。

 いずれにせよ、明治100年を含む1960年代は、社歌がブームになるなど「組織あるところに歌あり」の時代だった。そのため、「明治百年頌歌」のような記念歌が作られ、コロムビア、ビクター、ポリドール、テイチク、クラウン、東芝、キングからレコード化もされたのである。

 しかし、今日では同じような歌は望みにくい。たとえ記念歌が作られたとしても、みんなで合唱とはならないだろう。