先日、20年にわたるバイト遍歴を面白おかしくつづった『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』を上梓した吉本芸人・ピストジャムさん。

 50以上ものバイトを経験するなかで、ユニークな人たちに出会うのはもちろん、他人から見たら理不尽と思えるような憂き目にも……。(全3回の2回目/#1#3を読む)

バイト生活は20年以上――吉本芸人のピストジャムさん(44)にバイト中に出会ったユニークな人たちを教えてもらった ©佐藤亘/文藝春秋

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二言目には「てめぇ殺すぞ」

――20年以上のバイト歴。印象深い人はいましたか。

ピストジャム 僕がまだ大学生で、バイト人生初心者の頃出会ったのは、何かにつけて「てめぇ殺すぞ」というカフェバーの店長。確かに僕も全然使えなかっただろうと思いますが、例えば電気をつけ忘れていたら、「チッ、殺すぞ」という感じで、とにかく二言目には「殺すぞ」。

 何かにつけて「殺すぞ」と言うので最初は驚きましたが、だんだん慣れて、「これは『おはよう』という意味だ」とか、「これは『もっとちゃんとやれ』という意味だ」など、店長なりの真意を汲み取る能力が磨かれました。

 でも、僕が辞める意思を伝えたら、初めて「殺すぞ」じゃなくて「えっ!?」って。物騒な物言いだけど、ただのいい人だったという(笑)。

――パワハラじゃなくてよかった。

ピストジャム とはいえ、僕は多分、パワハラされやすいタイプなんです。何故かシフトが全部削られていたり、理由もなく蹴られたり……。でも、バイトは嫌なことがあったらすぐ辞めればいい。ヤバいかもと思ったら、次の日にはさっさと辞めています。そこは全く我慢しません。

「時給90円」のトホホな店番

――ブラック労働の経験も?

ピストジャム 下北沢の酒場が並ぶ横丁は、お店に立ったら、売上の30%をもらえる仕組みでした。でもお客さんが全然来なくて3000円しか売上がない日があって、計算上では900円の日給。ただ、10時間ぐらい拘束されているので、時給に換算したら90円(笑)。何してるんだろうと思いましたが、ルールを承知していたので、理不尽とは捉えていないですね。

――では、「カスハラ」(カスタマーハラスメント)に遭ったことは……?

ピストジャム めちゃくちゃ多いですよ。特にデリバリー系は、言われ放題なんですよね。「2分過ぎてる」「料理が写真と少し違う」「ちょっと汁が垂れてる」とか。でも正直、僕はそういうものに対して何とも思わないんです。

――言われっ放しでも、怒りや悲しみを覚えない。

ピストジャム そこに気持ちをあまり使わないですね。元々なのか、生き抜くための術として身についたのかはわかりませんが……。今は、基本的に配達しても無言の方が多いので、カスハラはむしろ「反応があった」ぐらいの感覚です。