月に1回しか仕事がなく、給料500円も当たり前――。44歳の吉本芸人・ピストジャムさんは、「芸人」として“食えた”ことが一度もない。生活のために20年以上バイトを続けているが、実は慶應の法学部政治学科卒。現在「おいでやすこが」として活躍中のこがけんさんを、芸能界に導いたのも彼である。

 かたやテレビにも出る人気芸人としてブレイク、かたや弁当配達にいそしむバイト生活。「ずっと負け続けている」と愚痴をこぼすピストジャムさんだが、本人はいたって飄々としている。その“強さ”はどこからくるのだろうか?(全3回の1回目/#2#3を読む)

高校も大学も「偏差値トップ校」を卒業。それにもかかわらず、ピストジャムさんはなぜ吉本芸人という厳しい道を選んだのか? そこに後悔はないのだろうか? ©佐藤亘/文藝春秋

◆◆◆ 

ADVERTISEMENT

「大阪No.1の名門男子校」の息苦しさ

――中高一貫の、超進学校出身とのこと。まずは中学受験をした経緯を教えてください。

ピストジャム 僕には弟が2人いるんですけど、母親からは「長男のあんたが勉強しないと弟たちもしないから」と、ドリルをやらされたりしていました。

 でも、小学4年生の時、分数が理解できず、生まれて初めて満点が取れなくなる壁に直面して。うちは京都の田舎で、塾に行くのは"勉強ができない人"という位置づけだったんです。自ら親に塾に行きたいと志願したものの、イジられたら嫌なので、バスに30分乗って、知り合いが誰もいない奈良県の塾まで通いました。

――根性がすごい。

ピストジャム 勉強したら、その分結果が出ること自体は楽しくて、そのまま6年生まで通って、その流れで中学受験です。京都の洛南中学校、大阪星光学院、奈良の東大寺学園、西大和学園の4校を受けて、大阪星光学院と西大和学園に合格。大阪星光学院に行くことになりました。

――大阪No.1の名門男子校ですね。

ピストジャム でも実際入学したら、最初の授業で大学受験の話をされたので、「ヤバいところに来てしまったな」と。中1で大学のことを考えないといけない、という雰囲気が苦しくて……。“無”になって6年間を過ごしました。「何も考えない」時代は、苦しかったですね。

――好きなこと、やりたいことが何なのかも、考えなかった。

ピストジャム 絵を描くことが好きで、10代の頃は絵描きになりたいと思っていたんですけど、完全に思考停止。同級生は京大、阪大が当たり前のテンションで、慶應の法学部に指定校推薦枠があったものの、文系の生徒に希望者がゼロ。そうしたら、その話が理系の僕にまわってきたんです。

 成績はダントツ悪かったし、じゃあ推薦で行きますと。特に何の意思もなく、やっぱり長男だから大学には行っておかないとダメなのかな、というぼんやりした感覚だけで決めました。