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文春野球コラム

広島・中﨑翔太のむき出しストッキングとヒゲの相関性についての一考察

文春野球コラム ウィンターリーグ2017

2018/01/20
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 2018年正月。カープの選手が全国放送の正月特番に出演する姿を私は感慨深く眺めていた。東京のカープファンにとってシーズンオフのカープ選手とは「12球団対抗歌合戦」の片隅に映る存在であり、メインゲストになることなど皆無であったからだ。
その番組の冒頭、ユニフォーム姿で整列する選手達を見て改めて気が付いたことがある。

田中広輔、安部友裕は出している。
薮田和樹、大瀬良大地、松山竜平、新井貴浩はしまっている。

 何の話か。ストッキングの話である。

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プロ野球選手のストッキング事情

 私が野球を見始めた1980年代後半、プロ野球選手は一律ストッキングを出して履いていた。出していると言っても、びよーんと紐状になったストッキングが靴下の両脇に見えている形で、小学生の私はあれに何の意味があるのかが分からなかった。

 このストッキング事情に異変が起こるのが1990年代半ばである。パンツの裾がだんだん長めになり、ストッキングが申し訳程度に見えるような着こなしが増えてきた。そして21世紀の声を聞くころ、ストッキングは完全にパンツの裾にしまわれた。2000年代半ばには「ここは松の廊下か!」というようなダブダブ裾のパンツも登場する。2013年にダブダブ裾で引退した前田智徳の裾がダブつき始めたのは2006年頃と私は記憶している。

 しかし同じ2006年、逆方向の動きも生じるのである。3月に行われた第1回WBCの日本代表としてイチローが我々の前に登場した時、そのストッキングはハイソックスのように引き上げられ、膝下までむき出しになっていた。オールドスタイルとも呼ばれるこの着こなしはイチローのイメージとも相まって、以降少数派ながら日本のプロ野球界、特に上記のカープ田中や安部のような俊足の野手に定着していった。この流れは女子高生の三つ折り靴下→ルーズソックス→ハイソックスという靴下の変遷とも呼応しているようで興味深い。なお現在びよーん型は絶滅したように見えるが、阪神・高代延博コーチの足元に僅かながらその生存を確認することができる。

©オギリマサホ

 で、中﨑である。カープの守護神・中﨑翔太は常にオールドスタイル、ストッキングむき出しである。なぜ急に中﨑の名を挙げたのかというと、実は投手でオールドスタイルをとる選手は殆んどいないのだ。カープだけで見ても、2017年一軍戦に登板した投手の中でオールドスタイルは中﨑ただ一人である。

 そもそもオールドスタイルの投手が少ないのはなぜか。2013年オフに西武の指揮官となった伊原春樹監督がダブ裾パンツの着用を禁じた時、岸孝之投手(現・楽天)は「裾がないと、くるぶしあたりが地面にすれて血だらけになる」と困惑したという(「朝日新聞」2015年9月2日23面の記事より)。足回りの動きが激しい投手にとって、裾の存在は非常に重要なのであろう。ストッキングを出すことが義務付けられている楽天二軍や、2014年西武のような特殊な事情がない限り、投手はパンツの裾を伸ばしてストッキングをしまいたいはずだ。なのになぜ中﨑はストッキングを上げ続けるのか。理由を考えてみた。

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