育成スタートから年俸は760倍になった千賀
千賀は17年オフの契約更改交渉で、初めて将来的なポスティングによるMLB移籍を直訴した。しかし、古巣ソフトバンクはポスティング移籍を認めていない、NPB唯一の球団である。メジャーでは好条件での契約が厳しくなる30歳を目前に、今オフ満を持して海外フリーエージェント(FA)権を行使した。
メジャーでも使い手が希少な、落差が大きい「お化けフォーク」と、今季5月の日本ハム戦では自己最速の164キロを記録した球威が武器だ。当初はジャイアンツ、エンゼルス、ドジャースなど西海岸を中心に多数の球団が興味を示し、3、4年契約で年俸は2000万ドル(約27億円)との見立てもあったのだが……。
千賀は当初から長期の契約を希望していた。ただ、年齢的には来季開幕時は30歳で、メジャー球団は長期契約を避けたい年齢になる。その上、日本人投手は松坂、ダルビッシュ有(パドレス)、藤川球児、和田毅(ソフトバンク)、大谷翔平(エンゼルス)らが渡米後にことごとく肘を故障し、トミー・ジョン手術を受けている。特に千賀は肘に負担が大きいフォークを駆使するため、その懸念がより強かった。
「千賀はそのことを認識していたようで、年俸を譲ってでも年数を重視した。1年でも長く契約し、その間に結果を出せば次の大きな契約を狙える可能性が高まる。年俸は2000万ドルが一流の先発投手の一つの目安だが、そこに及ばなくても円安の今の換算では20億円には届く。この水準を確保したことで、さほど交渉で粘ることなく、よしとしたのではないかとみている」(同前)
千賀は11年、ソフトバンクとの年俸270万円の育成契約からプロ生活をスタートした。1軍デビューしても当初はリリーフだった。育成選手からのメジャー契約は史上初で、まさに底辺から世界最高峰の舞台への挑戦権を得た。
年俸は育成時代の、実に760倍に跳ね上がった。メッツでは、ともに将来の殿堂入りが有力なマックス・シャーザー、ジャスティン・バーランダー両投手に続く先発ローテーションの3番手を狙う。「メジャーへの挑戦」ではなく「メジャーでの活躍」を目指した契約年数に表れたように、“成り上がり”の野球人生は道半ばだ。