お互いを思う気持ちは変わっていなかった
新納 史実が分からない中で、全成という人物に血を通わせてくれたのは、三谷さんの知識や頭の良さはもちろんですが、人への愛があるからだと思いました。演出陣もトライを許してくれたし、大河ドラマという時間に余裕がある現場で、半年以上、全成と向き合うことが出来たこともありがたかったです。
宮澤 現実と同じように、関係を育んでいく時間がありましたからね。全成が、義時の父・時政と妻のりくに、頼朝の息子の頼家を呪詛するよう頼まれます。その後いっとき、二人はすれ違ってしまうのですが、誤解がとけた実衣と全成が、呪詛人形をはさんで向かい合うシーンがあるんです。
ああ、お互いを思う気持ちは変わっていなかったんだな、いい夫婦だったんだなと、ホームに帰ってきた気持ちになりました。けれど次の瞬間、拾い忘れていた呪詛人形が一体だけ映り、雷鳴のようなとどろく。それは全成の死の暗示で……。
新納 オンエアはされていなかったんだけど、実衣が僕の手を取るために立ち上がった瞬間に、全成は「叩かれるんじゃないか」ってビクッとしたんだよね。
宮澤 ちょっとビビらせて「まだ許してへんで」と見せかけるのも実衣らしくて楽しかった。だけど、退場できない身としては、素敵な去り際の人々に羨ましさを感じるところもありました。三谷さんの台本は、どの役の人にもハイライトのような瞬間がある。全成も、頼朝に最後まで忠義を尽くした畠山(重忠)さんも、みんなかっこよく退場して出ていく。
全成と公暁、姿かたちが似ている二人
新納 僕はこれから放送を見るんだけど、公暁(こうぎょう)の去り際も、SNSで盛り上がってましたね。僕は、実は公暁に運命の対比を感じていて。
演じた寛一郎さんと撮影ではご一緒していないのですが、初めて公暁の後ろ姿が画面に出てきた瞬間に「あれっ、俺?」って思ってしまいました(笑)。そうそう、SNSで大河ファンの方が描いてくださった僕のイラストにも「公暁さんを演じた新納さんです!」って書いてあったんですよ(笑)。
そんな姿かたちが似ている二人は、境遇も近いんです。源氏の血を引き継ぎながら、若い頃に親元から離され、出家させられて、僧侶の姿で鎌倉に戻ってくるという同じ道を辿る。でも公暁は鎌倉殿に執着して、北条憎しという源氏の魂を強く持っていた。一方の全成は権力に恋々としない、軽やかな人だったなと、興味深く感じました。
宮澤 全成と公暁、そして全成の息子の阿野時元は同じお墓に入っているんですよね。
新納 沼津にある大泉寺というお寺で、エマさんとも一緒にお墓参りに行ったよね。