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 これは都市の生物多様性保全を目標に、都市中心部と都市周辺の拠点となる緑地を緑のネットワークでつなぐ政策で、その成果として緑豊かで生きものの賑わいある街づくりが実現しつつあるのですが、同時にヒグマも緑地帯を「移動回廊(コリドー)」として利用して、市街地まで来られるようになりました。

 2021年6月、札幌市東区の街中に突然現れ、4人に重軽傷を負わせた後、駆除されたクマ(♂・4歳)も、札幌北東部の石狩川河畔や茨戸川緑地から伏籠(ふしこ)川沿いのコリドーを通ってやってきた個体でした。クマにとっては街中よりも奥山のほうが暮らしやすいように思えますが、なぜ彼らは街中にやってくるのでしょうか。

オスグマを避けて人里へ

 実は、子グマを連れたメスグマや親離れしたばかりの若グマにとって最大の脅威はクマの社会で最も優位な「成熟したオスグマ」です。というのも若グマは繁殖期にメスをめぐる争いに巻き込まれる可能性が、また子育て中の母グマもオスグマによる「血縁関係のない子グマ殺し」にあう可能性があるからです。

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 子育て中の母グマは排卵が抑制され交尾ができないため、オスグマは自分と血縁関係のない子グマを殺すことで、自分と異なる遺伝子の継承を断ち、メスを交尾可能な状態に持って行くと考えられています。

北海道・知床半島のヒグマの親子 ©共同通信社

 メスグマや若グマにとっては、オスグマが闊歩する奥山に比べると、人里の方が安全でかつ農作物などが豊富で魅力的な場所なのかもしれません。アーバン・ベアは人里近くで暮らしながら人間を観察して、人間とはどういうものかを日々学習しているはずです。春グマ駆除などで人に追いかけられる経験もしていないので、オスグマよりも人間の方が怖くないと判断しているクマが増えてきている可能性はあります。

 あらゆる外部環境の刺激に対して柔軟に対応するのがクマの特質であり、クマの気質が変わったというよりは、人の行動が変わったからクマの行動も変わったと考えるべきでしょう。