「街にクマが出たら駆除」では限界がある
では我々はどうやってアーバン・ベアに対処していけばいいのでしょうか。従来のような「街にクマが出たら駆除」という行政と捕獲技術者任せの対症療法では、いずれ限界が来ます。人里のすぐ近くでクマが暮らしているという現実をまず市民一人ひとりが理解して、自分にできることをすることが大事だと思います。
基本となるのは、ゾーニング(空間的な住み分け)管理です。つまり奥山の森林はクマの恒常的生息地(クマゾーン)として半永久的に個体群が存続できるように保全し、人間が立ち入る際はクマの存在を前提として徹底的に対策する。一方で人の生活圏である市街地や農地(人間ゾーン)では、人の生命や財産をクマから守ることを最優先し、ここに立ち入ってしまったクマは毅然として駆除する。
両ゾーンを分けるラインはクマには見えません。ですからクマが侵入しやすいポイントには電気柵を設置したり、クマが隠れられるヤブなどを刈って、クマにラインを意識させる。あるいはクマを人里に引寄せる誘因になる生ゴミなどを放置しない。またライン付近の森に安心して生息できないようにクマを追い払うことも今後必要になっていくでしょう。
クマが暮らせるほどの豊かな緑ある日常を99%享受しながら、クマが人里に出没するという1%の可能性を、日々の生活の中でできるだけ低下させる「未然防除」の考え方が大事になります。
私はアーバン・ベアの存在が明らかになってきた今こそ、クマと人との共生に真剣に取り組む好機だと考えています。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。