新型コロナウイルス感染症の流行開始から、そろそろ3年が過ぎようとしている。本稿執筆時点で、諸外国では「もはやコロナは終わった」というムードであり、国内でも流行は下火になりつつある。しかし、何度も変異を繰り返して新たな感染の波を巻き起こしてきたこの厄介なウイルスに対しては、そう簡単に気を緩められないのも事実だ。

 コロナ対策の柱となるのは、ワクチンと治療薬だ。前者は奇跡的といってよい速度で開発が進み、このパンデミック抑制に大きな役割を果たした。しかし治療薬については、ほとんどの感染者が旧来の解熱剤などを服用したのみであり、新たな治療薬の恩恵に与った人は、一部の重症患者などにとどまっている。世界が何より必要としたコロナ治療薬は、なぜ人々の手に渡らなかったのだろうか。

抗ウイルス薬は「あらゆる医薬の中でも、最も開発が難しいジャンル」

 実のところ、抗ウイルス薬というものはあらゆる医薬の中でも、最も開発が難しいジャンルの一つだ。ウイルスは構造が単純であり、増殖を食い止めるための狙い所が細菌よりはるかに少ない。また、ウイルスは仕組みが多様であるため、一剤で多くのウイルスに効果を示す薬が作りにくいという事情もある。

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 こうしたこともあり、新たな抗ウイルス薬を一から作ろうとすると、研究開始から承認まで通常は10年前後の時間がかかる。そこでコロナ流行当初は、既存の抗ウイルス薬やその候補品から、新型コロナウイルスに対して有効なものを探すアプローチが採られた。

 これらはある程度安全性などが確認されているので、承認までの時間がずっと短く済む。いわば、まだ始まったばかりの競技で専門の選手がいないので、似た競技の選手を集めてテストし、適性のある者に出場してもらうようなやり方だ。

 この方法で、元はエボラ出血熱の治療薬候補であったレムデシビルという薬が見出され、コロナ治療の現場で用いられた。その一方で、いくつかの既存薬がコロナに有効ではという情報が乱れ飛び、臨床試験が乱立して多くの資金や医療資源が浪費されてしまった。