ただしこのゾコーバの効能は、発症期間が24時間ほど短くなる程度であり、また併用禁忌の薬も少なくない。広く行き渡ってコロナ対策の切り札となるかというと、今のところやや難しそうに見える。
開発に及び腰の国内大手
このゾコーバに関しては、有力議員である甘利明氏が、早期承認に向けて圧力をかけているかのようなツイートをするなど、塩野義の政治的とも見える動きが目立って批判を呼んだ。
とはいえ、塩野義はコロナのワクチン及び治療薬開発に対して、社内の研究者の8割を投入するなど、国内製薬企業の中ではコロナ対策に最も奮闘している。このことは、最大限に評価せねばならないと思う。
実のところ、国内の大手といわれる製薬企業でも、コロナワクチン及び治療薬の開発に及び腰のところが多い。1ヶ月先の流行状況も見通せない状況で、数年はかかる新薬の開発に資源を投じるのは、リスキーに過ぎるという経営判断は理解できなくもない。だが、百年に一度のパンデミックをただ指をくわえて見ているだけであるなら、彼らが盛んに掲げる「製薬企業の社会的責任」などという旗は、さっさと降ろしてもらうべきだろう。
大手製薬企業の中には、医薬の新たな種をバイオベンチャーから買い上げるだけになり、自前の研究所を縮小してしまったところもあり、これが響いた。大学の医学部でも感染症教育がなおざりにされて専門家が減っており、政府にも感染症対策の司令塔がなかった。要するにこの国は、いやこの世界は、パンデミックに対してあまりに準備不足であったというしかない。コロナが去っても、次のパンデミックは必ずやって来る。我々は今回の教訓を、次に活かせるだろうか。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。