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 特に、本来駆虫薬であるイベルメクチンは、一部の医師や政治家がこれを強く推したために少なからぬ信奉者が生まれ、今なお混乱が続いている。パンデミック下における新薬開発の難しさが、浮き彫りになった一件であった。

驚異的な速度でできた飲み薬。しかし「日本ではほとんどといっていいほど使われていない」

 そうした中、コロナ専用に設計された飲み薬の開発も進められ、国内では2021年12月にメルク社のラゲブリオが、2022年2月にはファイザー社のパキロビッドが特例承認を受けた。間に合わせではない真の治療薬が、流行開始から約2年で登場したというのは、驚異的な速度といっていい。特にパキロビッドは、臨床試験で入院率を約89パーセントも引き下げるという素晴らしい効果を示したから、医療現場の期待が集まったのは当然であった。

 だがこの著効を示すはずのパキロビッドは、日本ではほとんどといっていいほど使われていないのが現状だ。

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 この薬は、重症化のリスク(高齢・糖尿病・高血圧・腎臓病など)がある患者にしか処方できない。そして、他の薬物の代謝を妨げてしまう成分が入っているため、多くの薬剤と併用不可と規定されているのだ。高リスク患者は当然何らかの医薬を服用している人が多いから、パキロビッドを処方可能なケースは限られてしまう。

驚異的なスピードで登場した新薬も、処方可能なケースがかなり限られてしまうことに ©iStock.com

 これに関して岩田健太郎・神戸大教授は、韓国ではパキロビッドが7月までに29万回処方されているのに対し、日本では2万回程度にとどまっていることを指摘した。そして人口あたりのコロナ症例は韓国の方が多いにもかかわらず、死亡者が日本よりも少ないのは、これが原因の一つではという見解を示している。であるならば、硬直したパキロビッド使用規定を見直し、積極的な利用を検討すべきではないだろうか。

 もちろん、こうした制約のない新薬が現れることが一番よい。塩野義製薬が開発したゾコーバは、重症化リスク因子のない患者向けの医薬を目指して開発された。9月28日に臨床試験の最終結果が発表となり、順調に行けば近く承認を受けることになりそうだ。