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〈現地まで行ってみた〉BTSのJIN入隊でニュースは埋め尽くされたが…部隊まで足を運んだら見えた、“意外な風景”

〈現地まで行ってみた〉BTSのJIN入隊でニュースは埋め尽くされたが…部隊まで足を運んだら見えた、“意外な風景”

2022/12/16
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35旅団はもっとも訓練が厳しい

 第五師団入り口の門の上には、「統一の扉を開く鍵部隊」と書かれたアーチ型の看板があり、その下には数字の「5」を部隊の象徴である“鍵”を模した部隊マークが掲げられていた。

 陸軍では、歴史と伝統があり、重責を担う部隊を陸軍用語で「メーカー師団」や「メーカー部隊」といい、「白馬」部隊、「猛虎」部隊、「ドクロ」部隊などがある。ただ、五師団出身の兵士の間では、マークの模様が「鍵」よりも「車イス」に似ているとして「車イス部隊」とも呼ばれるそうだ。

第五師団入り口(筆者提供)

 第五師団は1948年に旅団として創設され、朴正熙元大統領も団長を務めた。その後、師団に昇格。

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 1979年に朴正熙元大統領を暗殺した金載圭元中央情報部部長(当時。現在の国家情報院院長)も所属し、当時朴元大統領を補佐する連隊長だった逸話は有名だ。芸能界では、ピ(レイン)やドラマ『ミセン-未生-』などに出演した俳優のピョン・ヨハンらがこの部隊の出身だ。

 JINはここで6週間の基礎軍事訓練を受けた後、正式な部隊に配属される。第五師団傘下には主に27旅団、36旅団、そして、35旅団がある。27旅団と36旅団に配属されると、GOP(General Outpost )といわれる小隊単位の哨所に交代で立つことになる。櫓のようなもので、北朝鮮との国境近くや付近の川沿いに点在している。映画やドラマなどでご覧になられた方もいるかもしれない。

 35旅団は、その後方を守る役割を担い、もっとも訓練が厳しいことで知られている。この旅団で服務した知り合いは、「ほとんど訓練に明け暮れる苛酷な旅団」と言っていた。

入隊中にコロナに感染すると、3か月後に再入隊になるかも

 北朝鮮との緊張が高まった2017年、息子が最前方部隊に配属していた知り合いは、当時寝られなかったそうで、こう話していた。

「戦争は起きないと思いながらも、不測の事態が起こるかもしれないと毎日無事を祈るばかり。私が兵役に就いた80年代は最前方は真っ先に殺されるといわれましたから、その記憶がどうしても蘇ってしまう」

 第五師団入り口の前まで行くと、女性がぽつんと立っていた。話しかけると、「昨日、息子が入隊したんですけどね……」とため息をつく。マスクの中から白い息が漏れた。その日は、最低気温が零下10度くらいまでに冷え込み、風が吹くと体感温度はさらに下がった。漣川郡はソウルよりも2度ほど寒いと言われるが、手袋をしていても手がかじかんでくるほどの寒さだった。

漣川郡の様子。右側は有名な有名なビビングクス店(筆者提供)

 何か事情があるのだろうかと思っていると、入隊した息子さんがコロナの検査で陽性となり隔離命令が出て迎えに来たという。韓国では今は一週間ほどの自主隔離となっているが、入隊中に感染すると状況によっては3カ月後に再入隊ということになるかもしれないと説明されたそうで、女性は、「覚悟して送り出したのに……」と言葉少なだった。