「実は遺骨遺棄が多い」東京駅、犯人は近郊に住む身内説が濃厚か
犯人の動機は何だったのか。T氏は「犯人が日本人という前提だが、未だに所在不明等の届け出が出ていないことから、老女がもらっていた年金を不正に受給しようとした家族や同居人等の身内の犯行ではないか、という線が濃厚だった」という。
「自宅で亡くなったのなら、そのまま放置するか、臭いが出ないように何らか処理を行うほうが見つかる可能性は低い。年金受給の継続が目的なら、遺棄するほうが発覚する確率は高くなる。遺体を手元に置いておきたくなかった、葬儀ができなかったとしても、なぜ発見されやすい東京駅のコインロッカーを選んだのか。遺棄するにしても場所は他にもあったはずだ」(同前)
捜査員らにとって、そこが不思議だったのだ。
わざわざキャリーバッグに入れ、東京駅まで移動させたことを考えると殺人ではないか。殺害したが遺体の処理に困り、東京駅のコインロッカーに遺棄。無施錠だったのは、鍵をかける金がなかったのではないかとも考えたが、鍵をかける金がなかったなら、電車賃はどうしたのか。そもそも犯人はどこからどうやって東京駅まで移動してきたのか。
次々と疑問が出てきたという。
そもそも犯人はなぜ東京駅に遺棄したのか。「実は東京駅は、遺骨を遺棄されるケースが他の駅より多い」とT氏は話す。T氏が知るだけで、1年に3件発生した年もあった。東京駅が日本の玄関口だからだ。
ここには電車、新幹線、地下鉄、バス、タクシーとあらゆる交通手段があり、東京駅からどこへでも行ける。
「例えば、これが渋谷や新宿なら、その周辺に何らかの縁があったと考えて捜査するが、東京駅は別だ。もしかすると地方から、遺体を運んできたかもしれないし、旅行途中で亡くなった旅行者だったのかもしれない。日本人でないのかもしれない」(同前)
捜査範囲が広がりこそすれ、狭まることはなかったとT氏は当時を振り返るが、「人間の心理として、遺体の入ったキャリーバッグを持ったまま長く歩きたくはないはずだ。東京駅にアクセスしやすい、そう遠くない所に住んでいる身内の犯行でないか」。
捜査本部は2015年10月、被害者を知っている人が気づくのではないかと遺体の顔を復元した写真を公開した。専門家が遺体のデータをもとに頭蓋骨の模型を作成し、そこに樹脂で肉付けして顔を再現するという「復顔」を行ったのだ。この写真を用いて、情報提供を求めるポスターやチラシも作成された。チラシは東京駅周辺だけでなく、パチンコ店周辺にある市の町内会の回覧板でも回されたというが、残念ながら解決につながる情報は寄せられなかった。
死体遺棄事件の公訴時効は3年。すでに時効は成立しているが、殺人の可能性は否定できない。警視庁では、現在も殺人事件として情報の提供を求めている。捜査の進展を願うばかりだ。