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最大の謎は「なぜコインロッカーに鍵を閉めなかったのか」

 なぜ犯人はコインロッカーに鍵を閉めなかったのか。「この事件の最大の謎はそこだ」とT氏はいう。

「犯人がずさんだったのか、無施錠ならすぐに回収されると知らなかったのか。そこに意図があったのかはわからない。遺体を早く見つけてほしかったのではと報じるメディアもあったが、東京駅とその周辺には数多くの防犯カメラが存在する。早く見つかればそれだけ自分が犯人だとバレてしまう。どこまでも足取りを追跡されるだけだ」(同前)

 実際には、事件発覚まで1か月というこの時間が、解決をさらに難しくした。理由は、東京駅とその周辺に山ほど設置されていた防犯カメラだ。捜査員たちは、その映像から犯人特定は時間の問題だと踏んでいた。捜査員らは片っ端から防犯カメラの映像を調べたという。だが、どのカメラにも事件当日の映像は何一つ残っていなかった。ビデオ映像はすでに上書きされていたのだ。

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「当時、鮮明な映像なら残存期間は10日間ほど。荒い映像でも長くて3週間だった。東京駅近くのビルの防犯カメラがもっとも長く残っていたが、それも3週間足らず。1か月も前の映像は、どの防犯カメラのビデオにも残っていなかった」(同前)

 捜査員の中には「1回ぐらいの上書きなら再現できるのではないか」という者もいたが、上書きされた映像は戻せなかった。犯人の特定どころか、足取りすら掴めない。犯人が戻ってきて、コインロッカーを確認したかどうかすら不明だった。東京駅周辺では、遺棄された時間帯を含めて行き交う人々に聞き込み捜査を行い、情報提供を求めるチラシも配ったが、事件に結びつく有力な情報は得られなかった。

 キャリーバッグの中からは、他に黒いイヤホンと埼玉県内のパチンコ店のタオルが発見された。捜査員たちは、このタオルをもとにパチンコ店の客を中心に聞き込みを行ったが、キャリーバッグの目撃情報も不審人物の情報もなかった。

 犯人ではなく、被害者本人が客として利用していた可能性もある。年齢からすると、すでに年金受給者の可能性が高い。パチンコ店を中心に半径7キロほどの範囲を中心に行方不明の年金受給者がいないか。歯形についても埼玉県だけでなく、東京と埼玉の間の沿線にある歯医者に、被害者の歯形を照会したが、いずれも該当するような人物は見つからなかった。キャリーバッグや着用していた服の購入先を調べたが、こちらも不明のままだ。