これは、若い世代に限った話ではありません。日本は高度経済成長期に製造業を中心に発展しました。当時は、上意下達の縦社会で、決められたルールの中で与えられた役割をまっとうすることが美徳とされました。その中で、発注元と下請けといった上下関係が文化として根づき、中抜きの横行など、いまだに負の遺産として残っています。これもリスペクトのない無意味な縦社会のひとつの形態と言えるでしょう。
――ビジネスパートナーである外注先や職場の非正規社員、協力会社のスタッフなどを業者扱いする人もいますね。
沢渡 私がある鉄道会社の会議に参加した時のことです。次々に新しい取り組みにチャレンジして業界内外問わず評判の高いエースが登壇したのですが、その人は、参加していた下請け的な関連企業の人たちに非常に丁寧に対応していました。どうしてそこまで丁寧なのかと問うと、「この会議室を一歩出れば、みなさん、お客様ですから」と当たり前のように答えました。
サッカーW杯で言えば、森保監督の誠実な人柄も話題になっていますが、やはりこうした人は周囲からリスペクトされますし、アイデアや人が集まってくるものです。
――リスペクトは、枠組みや強制では得られません。
沢渡 イノベーションや産業構造の転換には、既存の枠組みや関係性の垣根を超える“越境”が欠かせません。その点で、仕事や人間関係の軸を「リスペクトできるかどうか?」に据えれば、業種も業界も年齢も社歴も関係ありませんから、自由なコラボレーションが可能になります。
まず組織ありきではなく、リスペクトによって結ばれた仕事人同士がチームとなり、プロとしてそれぞれの責務をまっとうする。こうした考え方を「ジョブ・クラフティング」と呼びます。クラフトマンとは職人のこと。
会社員であっても、自身を職人として捉え、プロとしてリスペクトできる仕事や人にリソースを向ければ、モチベーションや能力も高まっていきます。もちろん、チームとして仕事をするのであれば、マネジャー、プレーヤー、サポートスタッフなど指揮系統も必要になりますが、それはあくまで意味のある上下関係で、リスペクトのない無意味な縦社会とは別物です。