限りある「心のリソース」の使い方
――そう考えると、「職場にどれだけリスペクトできる人がいるか」は重要ですね。
沢渡 だからこそ、「仕事は職場が9割」とも言えます。今は能力が発揮できていない人も、自分を責めるよりも先に環境を変えれば、歯車が好転する可能性があります。仮に上司とソリが合わなくても、どこかにリスペクトできるロールモデルが見つかれば、仕事に前向きに取り組めるようにもなります。
逆に、最悪なのは、「周囲にリスペクトできる人がいない」状態です。「生産性=限られたリソースをいかに有効活用するか」とするならば、“心のリソース”を無駄に消費することになります。無意味な縦社会の中で、尊敬していないのに「ありがとうございます」と感謝した振りをしたり、納得していないのに「申し訳ありませんでした」と謝った振りをする。苦痛なゴルフや飲み会に参加させられる。
社会人として誰もがこなしていることですが、自分でも気づかぬうちに、心のリソースがすり減っていきます。一人ひとりは「仕方ない」で済ませたとしても、社会全体で見れば、無駄に消費される心のリソースは膨大です。もし同じリソースをポジティブな方向に向けられたらと考えると、生産性には雲泥の差が生まれるはずです。
収入や成功だけが仕事の価値ではない
――ネガティブに消費される心のリソースの何割かでも、リスペクトできる人とのポジティブな関係性に向けられれば、日本の生産性はだいぶ向上しそうです。
沢渡 不景気の中で「仕事はお金のために心を殺してするもの」といった価値観や、「いかに楽をしてお金を稼ぐか」といった考え方も広がっていますが、どうせ仕事をするならば、前向きに取り組めた方が良いでしょう。
先日、アメリカで、5~8歳の子どもに「将来なりたい職業」と「仕事でもっとも重要なこと」をアンケートした調査がありましたが、結果は「なりたい職業」のトップ3が医療従事者、教師、科学者。そして、「仕事でもっとも重要なこと」の1位が「他者を助けること」でした。アンケート結果なので、ある一面に過ぎないかもしれませんが、「リスペクトに値する人物であれ」とのカルチャーが感じられます。