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 今ツアー『ONE FIFTY』でも、その姿勢は変わらない。矢沢はライブごとに曲目をアレンジした。私が訪れた2回を例に挙げれば、12月15日の武道館公演では11月13日の群馬公演と3曲を入れ替え、5曲をプラスした。

公式HPより
著者が訪れた2022年11月13日群馬公演の様子

 新国立競技場初日(8月27日/23曲)と武道館初日(12月15日/22曲)のセットリストを比べると、同じ曲は『傘』『逃亡者』『恋の列車はリバプール発』『サイコーなRock You!』『止まらないHa~Ha』の5つだけ。別のツアーなのに、わずか22.7%しか被っていない。

 さらに、データを加えてみよう。2021年のツアー『I'm back!! ~ROCKは止まらない~』の武道館3日目(12月19日/22曲)を含めると、3公演全てで歌ったのは『恋の~』『サイコーな~』『止まらない~』の3曲のみだった。

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73歳にして変化を厭わない姿勢がファンを惹きつける

 もう1つ特筆すべきことがある。上記の3公演を対象に調べたところ、オリジナルアルバム34枚のうち26枚の中から曲を選んでいた。確率は76.5%にも上る。この直近3ツアーの全ライブを計算に入れれば、パーセンテージはさらに増加する。

 長いキャリアを誇っても、ライブで披露する曲が偏る歌手もいる。ファンの求める曲ばかりを歌う人もいれば、敢えてヒット曲をほとんど歌わない人もいる。

 セットリストとは、アーティストの象徴である。矢沢はファンに媚びない。だからといって、独りよがりにもならない。いつの時代も妥協せず、貪欲に新たな音楽を取り入れてきたため、どの年代のアルバムもクオリティが高く、楽曲の幅が広い。だから、絶妙なバランスの曲目で“ファンの想像”を超えられるのだ。かつて、矢沢はこう話していた。

〈ピカーッと光るところしか世間は見ないんですよ。ところがそんな事ないですよ。そこに来る過程っていうのが一般のリスナーは知らないけど、すごく大事。〉(1998年11月号 bridge)

 武道館初日の中盤、「今年初めて歌います」と言って『ニューグランドホテル』のイントロが流れると、歓声が起こった。1つのツアーを同じセットリストで回る歌手も珍しくないが、矢沢は常に己に刺激を与え、変化を厭わない。その姿勢が年齢を超越したエネルギッシュさを生んでいるのだろう。

 この日のアンコールで、ファンに「ずっと矢沢を応援してくれて心から感謝してます」と述べ、「歌えるまで歌います」と宣言した。

 今はゆっくり静養して喉を休めてもらいたい。ファンの誰もが来年、前人未到の武道館150回公演の達成を祈っている。