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《150回目の武道館公演中止》「矢沢のロックは死んだ…」批判を越えて、矢沢永吉(73)が45年間武道館を“チョーマン”にし続けた「前人未踏の理由」

2022/12/20

 12月20日、歌手・矢沢永吉(73)が喉の不良のため、ツアー最終日の日本武道館公演を中止すると発表した。それでも、一昨日までに同会場最多の149回を刻んできた功績は色褪せない。1977年8月26日に日本人ロックアーティストとして初めて開催してから、なぜ45年間もライブの聖地を“チョーマン”(超満員)にできたのか――。

公式HPより
日本武道館 

50年間活躍してきた背景にある「予想を裏切り、期待を裏切らない」精神

 お客様は神様です――。歌手の三波春夫が言い始め、レツゴー三匹が広めたフレーズを日本人のほとんどは知っているだろう。生前、三波は言葉の真意をこう述べていた。

〈われわれはいかに大衆の心を掴む努力をしなければいけないか、そしてお客様をいかに喜ばせなければいけないかを考えていなくてはなりません。お金を払い、楽しみを求めて、ご入場なさるお客様に、その代償を持ち帰っていただかなければならない。

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 お客様は、その意味で、絶対者の集まりなのです。天と地との間に、絶対者と呼べるもの、それは「神」であると私は教えられている〉(1984年2月発行 三波春夫著『歌藝の天地』)

 昨今、このフレーズは曲解されている。顧客である需要側が「自分の求めに応じるべき」と主張する際の根底に流れており、商品の供給側が唯々諾々とその要求を飲むケースが見受けられる。

 だが、三波は“いかに大衆の心を掴むか”という演者の視点から使用している。これは、決して「供給側は客の要望に沿えばいい」という意味ではない。

 歌手は常に観客の一歩先を行かなければならない。矢沢永吉が50年間も一線で活躍してきた背景には「ファンの予想は裏切るが、期待は裏切らない」という姿勢を貫いてきたからだろう。彼はこう話している。

〈いい意味で裏切るのよ。ファンの予想や想定の枠をちょっと越えるところを出していく。(中略)彼らや彼女たちが想像してた通りのことを演ったらオモシロくない。お互いに。だからほんの少し予想の軸をずらすというか、ライン、バーを越える。〉(2007年4月号 サントリークォータリー) 

2010年東大の学園祭にサプライズ出演 ©文藝春秋

 だからと言って、矢沢は受け狙いをしようとはしない。

〈要はね、「矢沢自身が何を発信したいか」なんですよ。そこの部分をファンは信頼し、期待してる。サプライズがなきゃ、ライブ演ろうがナニしようがそのうちソッポ向かれるでしょ。「ワーォ、永ちゃんそう来たか」っていう驚きがなきゃあね。〉(前出・サントリークォータリー)