小学生の頃、故・手塚治虫氏の『ブラック・ジャック』を読んで、「将来医者になる」と決意したという勝俣範之先生。「すべての医療は、患者さんの笑顔と希望のためにある」と、柔らかな笑顔で言い切ります。

 抗がん剤を使ってがんとのより良い共存をめざす中で、もっとも大事にしていることは何か。抗がん剤の「正解」は、どこにあるのか。腫瘍内科医として、これまでに6000人以上のがん患者を診療してきた勝俣先生に、詳しくお聞きしました(前後編インタビュー。#1が公開中です)。

患者さんからもらったという、手塚治虫の直筆サイン入り色紙

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抗がん剤治療を受けるとき、一度腫瘍内科医の意見を聞きに行ってほしい

──今、がん治療に一番大事なのは?

勝俣 しっかりと正しい治療を受けること。それと、正しい情報を知ることです。

 正しい治療というのは、いわゆる「標準治療」と呼ばれているもので、これは医学的に、現在行える最善の治療という意味合いなのですが、この浸透率がものすごく低く、誤解されているところがあります。

──「先進治療」が上のクラスで、「標準治療」はその下、と思っている人もいるのでは。

勝俣 それはメディアがちゃんとした情報発信をしていないからです。

 我々医療者の役割は、患者さんに適切な治療を受けてもらうことですが、メディアにもちゃんと責任を持ってもらわないと。

 日本では、抗がん剤の専門医が対応せず、抗がん剤で治せるがんを治せていない状況もありますが、それは大きな問題です。患者さんには、抗がん剤の専門家である腫瘍内科医がいるという「正しい情報」を知ってもらい、抗がん剤治療を受ける時には、必ず一度、腫瘍内科医の意見を聞きに行ってほしいと思います。

勝俣範之医師

──がんのステージによって、「正しい治療」は異なりますよね。

勝俣 そうですね。早期がんであれば、治療で治る可能性が高いので、適切な治療を受けることが特に大事です。進行がんの場合は、治る可能性は低くなりますが、抗がん剤などの治療をうまく使うことで「より良い共存」をめざすことができます。医師と患者さんがよく話し合って、一緒に治療方針を考えていくことが大事です。

──「話し合い」も腫瘍内科医の大事な治療なんですね。

勝俣 腫瘍内科医は「内科医」ですから、心のケアまで行うことも守備範囲になります。特にがん患者さんは多くの不安・悩みを抱えていますので、良いコミュニケーションがとても重要になってきます。

 患者さんに適切な治療を受けてもらうためにも、良いコミュニケーションは大切です。世間一般で行われている「松竹梅型インフォームド・コンセント」、つまり「治療法には松竹梅があります。どれにしますか?」という一方的なものではなく、患者さんと良いコミュニケーションを取りながら、一緒に考えていく姿勢が大切だと思います。特に、進行がんの患者さんの場合は、患者さんの生活の質(QOL)を保ちながら、うまく治療をやっていくことがより大切になってきます。

 抗がん剤治療には副作用がつきものなので、ただ延命をめざすのではなく、「より良い共存」でなければ意味がありません。患者さんが生活の中で、「何を大切にしていきたいのか、どう生きていきたいのか」を聞き、そのためにはどんな治療を選択することが良いのかを一緒になって考える。それが本来の我々の仕事なのに、徹底して実現するためにはあまりにも腫瘍内科医が少ないのが現状です。