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抗がん剤の副作用にしっかり対応するには、専門知識と経験が必要

──具体的に、副作用への対応として大切なことは何なのでしょうか?

勝俣 抗がん剤を投与するのはどんな医師でもできますが、抗がん剤の副作用にしっかり対応するには、かなりの専門知識と経験が必要です。最も致死率の高い副作用は、白血球が減少した際の感染症ですが、この副作用にはきちんと対応できていない現状があります。感染症が十分にコントロールできず、患者さんが亡くなっているケースもあります。

 

──それは大変ですね。

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勝俣 そうなんですよ。だから、腫瘍内科医を増やさないといけないという使命感もあって、今の病院への移籍を決意しました。国立がん研究センターは研究を極めるには向いていますが、純粋な教育機関ではないので、初期研修医もいなければ、学生もいません。その点、日本医科大学武蔵小杉病院では、幅広く人材教育ができます。学生たちが目をキラキラさせて腫瘍内科医に興味をもってくれる様子を目の当たりにすると、日本医療の未来にも期待が持てます。

いつまで抗がん剤を続けるのか、という問題

──腫瘍内科医不足以外にも、課題がありますか。

勝俣 今、がんで亡くなる方の8割が急性期病院(緊急で重症の患者の治療を目的とする病院)で亡くなっています。自宅で最期を迎える方はたった1割で、ホスピスは1割以下。急性期病院は、積極的治療が専門なので、決してQOLが高いとはいえません。海外では6〜8割のがん患者さんが在宅やホスピスでケアを受けているのと比べると、日本の緩和ケアが手厚いとはいえないのも課題です。

──そうした状況は、腫瘍内科医不足からくるものではないんですか?

勝俣 関連していると思います。腫瘍内科医は、抗がん剤の専門家であるがゆえに、抗がん剤の限界と止め時も心得ていますが、そうでないと、抗がん剤をいつまでも止められなくなります。

 分子標的薬という新しい抗がん剤が増え、治療の選択肢が増えたことは良いことだと思います。しかし一方で、効果がないのにもかかわらず、患者さんは副作用に苦しみながら、亡くなる寸前まで抗がん剤投与をされてしまうケースが増えている現状があるのです。一つの抗がん剤が効かなくても、別の抗がん剤……と続けるうちに、ホスピスや在宅ケアへ移る準備もできず、急性期病院で亡くなってしまうということが多いのではないでしょうか。

 日本で「亡くなる前1ヵ月以内に、抗がん剤などの積極的治療をしていた患者さんは65%」という報告もありました。カンファレンスで、外科の医師に対して私が「末期がん患者さんに、この抗がん剤は苦しいだけではないでしょうか」と意見したら、「最期まで諦めないのが医者の務めじゃないのか!」と拒否されてしまったことがあります。