宗教二世に注目が集まっている。多くの人は松本麗華さんの名は知らなくても「アーチャリー」は覚えているだろう。地下鉄サリン事件や松本サリン事件の首謀者として2018年に刑死したオウム真理教の教祖・麻原彰晃こと松本智津夫の三女だ。富士山麓の教団施設に強制捜査が入っていた日、マスコミに向かってアッカンベーをしてみせた少女は39歳になっていた。
約束の5分前に現れるとエントランスに入る前にコートを脱ぎ、部屋ではバッグを足元に置いた。社会人として完璧過ぎるほど完璧だ。現在は心理カウンセラーとして働いているという松本さんは、宗教二世の問題をどう見ているのか。『週刊文春WOMAN2023創刊4周年記念号』より、一部編集のうえ紹介する。
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宗教二世をどう定義するのか
5歳から16歳まで閉鎖された教団のなかで育ち、世間の常識も分からないまま大人になってしまいましたから、礼儀作法やマナーについては、今も手探りの状態です。とはいえ、もう教団を離れてからの人生のほうが長くなりました。
私には姉が2人、妹が1人、弟が2人いますが、今は次姉(以下、姉)と上の弟、元信者で既に教団を離れている男性と4人で郊外の町でルームシェアをして暮らしています。
姉とは最近、宗教二世の問題についてよく話し合っています。そもそも宗教二世をどう定義するのかということですが、特定の宗教を信仰する親のもとで、その影響を強く受けて育った子どものことをいうのだろうと思いつつ、しかし、たとえ親と一緒に行動していたとしても、それは親の意思でそうしているだけであって、子ども自身は信仰の告白をしているわけではないんです。私も教団にいた頃から「自分で選んでここにいるわけではない」と思っていました。
宗教二世が声高に叫ばれ始めたきっかけ
当時は信仰心があったのかと聞かれることがありますが、足元のアリを踏みつぶしてはいけないよと父に言われたことを守った。果たしてそれは信仰なのか。親からご飯を残しちゃいけないよ、人には優しくしようね、嘘をついてはいけないよと言われていたのは、普通の家庭となんら変わるものではないと思うのです。
それは教団が地下鉄サリン事件をはじめとする数々の事件を起こしていたことを知らなかったからそんなことが言えるのだと言われれば、その通りかもしれません。