――いつ頃から、宮内記者との物理的な距離が開いていったんでしょうね。
大木 私が担当した2006年の時点で相当距離を感じていましたから、どう遠のいていったのか分からないです。20代の浩宮さまの同行取材は距離がもっと近いと思います。記者たちが「山ばっかり登っているからお妃が遅れるんです」と、そんなことまで話しかけています。
「天皇や皇族は、人々をがっかりさせてはいけない」と私は思っていて。この機会にあえて苦言を申し上げることも必要かと思って、一つ思い出したことがあります。
「それはね、やっぱり言えないんだよー」
皇太子時代の陛下が古い水利施設か何かを視察されて案内の人から説明を受けているとき、川を挟んだ反対側、100メートルほど離れたところに人垣ができていたんです。向こうからは「殿下、殿下」と言って、ワーッと手を振っている人たちの声が記者にも聞こえる。それでも陛下は説明を真剣に聞いている。それがだんだん気になって、私はそばにいた職員に、「『あちらに手を振られては』とお伝えしたほうがいいのでは」と言いましたが、誰も動こうとしないんですよね。
――一言お伝えするということをしない。
大木 しない。後日、「あの時一言、なぜ言わないんですか」と東宮職の幹部を問い詰めたところ、「それはね、やっぱり言えないんだよー」と返されて、私は非常にがっかりしました。せっかくのチャンスなのにもったいない。あともう一つ、陛下がお召し列車に乗っているときに、カメラを構えていたことがありましたね。当時の皇太子ご夫妻はアピール下手でしたし、あのときもがっかりして、「撮るほうではなく、撮られるほうだろう」と。これらのことはご本人というより、職員などの周囲の責任の問題なのかもしれないですけれども。
――訪問先やお召し列車でお見かけした陛下が、自分のほうへ手を振ってくださったとわかったら、どれだけファンが増えるか。
さりげなく陛下をフォローされる雅子さま
大木 そうですよね。そうした点では、美智子さまには立派だったところがたくさんあることは否定しません。取材すると、美智子さまは周囲の者に、人垣を見つけたら「あちらに人がいますよ」と必ず伝えるように、とおっしゃっていたそうです。その姿勢は徹底しています。見事です。ただ、先ほど申し上げた2つの場面に雅子さまはいなかった。もしいらっしゃれば、そういった役割を担ったかもしれないと感じています。
――そういえば9月のイギリスご訪問では、さりげなく陛下をフォローされる雅子さまの様子が印象的でした。滞在先のホテルを出発するとき、見送る関係者の前をそのまま通りすぎそうになった陛下に、雅子さまがそっと声をかけられて、気がつかれた陛下があらためてお礼とご挨拶を述べられていました。
大木 これからそういう機会が増えてくるかもしれません。亡くなった元東宮大夫の野村一成さんは、皇太子妃時代の雅子さまの復活を信じて、「見ていてくださいね。妃殿下は立派な皇后になりますよ。これまでとは全く違う、ダイアナさんのようなタイプの皇后になる」と語っていました。例えば児童福祉などの分野では、雅子さまは進講する専門家も驚くほどの知識と鋭い問題意識を持っているそうです。