落ち目の総理にほくそ笑むのは幹事長。しかし、誰もついて行かない……月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」。2023年1月号「迷走の岸田、野望の茂木」より一部を転載します。

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 元首相の安倍晋三を悲劇的なテロで失って以降、首相の岸田文雄はやることなすこと全てが裏目に出て、凍てつく厳冬の2023年を迎えようとしている。決断を下すのは最悪のタイミング。しかも、大きくぶれた果ての決断――それが政治で最も肝要な「信用と信頼」を著しく損ねていることに当の岸田自身が気付いていない。

公明党の山口代表 ©文藝春秋

 典型的なのは、相次ぐ閣僚の更迭劇だった。11月9日夜、法相の葉梨康弘がパーティの席上、自らの役職について「死刑のハンコを押すだけの地味な役職」などと放言。岸田は「このタイミングで困るじゃないか!」と怒りをぶちまけたが、なぜか翌10日、「自らの職責の重さをしっかりと感じ説明責任を果たしてもらいたい」と、葉梨留任を示唆してしまう。

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 だが、世間の批判はますます炎上するばかり。同日夜、葉梨は岸田に電話で「これ以上迷惑かけたくないので、総理の好きにして下さい」と、自ら首を差し出してみせた。ところが岸田は「もう少し考えてみます」と言って電話を切り、またも判断を先送りした。

 岸田が重い腰を上げたのは翌11日早朝であった。朝6時半、岸田は葉梨に電話をかけ「気が変わってないですか?」と辞任の意思を確認。ようやく更迭が決まった。岸田の判断がブレまくったことで、傷口を大きく広げた。

 その直後、岸田から葉梨更迭の連絡を受けた公明党代表の山口那津男は思わずこう問い返した。

「えっ? 葉梨さんだけですか?」

 この時すでに総務相の寺田稔の政治資金問題がくすぶっていたからだ。山口が思い起こしていたのは安倍政権時代の2014年、法相の松島みどりと経済産業相の小渕優子にそれぞれ疑惑が持ち上がった時のことだった。この時、松島と小渕を同時に辞任させることで、政権へのダメージは最小限に抑えられた。それと同じ対応を岸田に期待していたのである。

 だが、岸田は山口の反問に、押し黙ったままだった。

 結局、寺田は追い込まれて更迭となった。「安倍総理の時は不祥事対応の読みが鋭く判断も早かった。先読みも鋭かったのに」。山口は周囲にこう不満を漏らしている。ところが岸田は「安倍さんと比べられるのは嫌だな……」とボヤく。この一言に岸田の危機意識のなさが凝縮している。