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言葉による感情の細分化

――そうした子供たちの国語力を回復するにはどんな手立てがあるのでしょうか。

石井 たとえばコミュニケーション不全の不登校の子たちに対して、あるフリースクールでは自分の感覚や気持ちと向き合うところから出発します。自分の興味のあることに関して、「思ったときに思ったことを書きとめる」訓練をし、さまざまな遊びや活動を通して子供自身の感性や意欲を取り戻していく。そこから〈自分の内面と結びついた言葉〉を育んでいくんです。

 じつは社会のどん底で言葉を失っている子供たちへのアプローチ法には、汎用性の高いヒントが多く隠されています。

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 もう一例あげると、少年院や刑務所を出た子供たちの再犯防止教育に力を入れる福岡県のヒューマンハーバーそんとく塾では、〈感情の細分化〉を目的とした「言葉のバブル」というユニークな授業を行っています。

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 塾生たちに配られる【怒り】のプリントには、いくつかの大小のマル印(泡)と、その横に「いきどおる」「むくれる」「いまいましい」「激怒」「腹立たしい」など怒りをあらわす様々な言葉が書かれています。それぞれのイメージで、怒りの度合いが大きい言葉は大きなマル印のなかに、小さい言葉は小さなマルのなかに書き入れていってもらう。

 塾生たちはこうしたプロセスのなかで、感情には大小があることを視覚的に把握していきます。つまりちょっと腹が立ったときに何でも「死ぬ」と言ってると暴力沙汰に発展しやすいですが、「腹立たしい」とか「むくれる」とか感情の程度に応じた言葉を知ることで、自分をコントロールしやすくなる。授業では、こうした言葉による感情の細分化を、喜怒哀楽それぞれの場合で丁寧に行っていくんです。

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感情のグラデーションを把握する

――なるほど、ひとつの感情のなかにも様々なバリエーションと大きさがあることを言葉で腑分けしていくわけですね。

石井 一般的な刑法犯の再犯率は約5割ですが、そんとく塾の支援を受けた人の5年以内の再犯率は約1割なので、この授業の効果の高さがわかると思います。

 感情のグラデーションを言葉で把握できないと、大人になってからも様々なトラブルを起こしがちです。たとえば、「好き」=「セックスOK」と短絡的に解釈してしまうような人がセクハラや性犯罪の現場ではあとを絶ちませんが、当然ながら「好き」や「好意」のなかにも感情のグラデーションがあるわけです。

 感情を適切にとらえ表現する国語力は、社会のなかで自分と他者が心地よく生きていく力と密接に結びついています。