60万円台半ばという驚異的な価格で話題になっている中国の格安電気自動車(EV)メーカーが、2023年春の市場参入を目指して日本市場を調査することが報じられ、注目を集めている。

 将来的なEVの普及で減少するガソリン税などにかわる新たな税制として、「走行距離に応じて課税する案」が波紋を広げている中、軽自動車を中心とする日本の自動車産業はどんな転換を迫られるのか。中国のIT事情に詳しいジャーナリスト・高口康太氏が寄稿した。

急速に進化し、14億人の生活を変えてきた中国製EV。日本にもその波が確実に迫っている

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日本社会に迫るEV化の波

 日本の自動車産業を守れるのか? 自動車業界で働く550万人の雇用を守れるのか? それとも、過去30年間、多くの産業で繰り返されてきたように日本は没落していくのか?

 今、こうした不安が広がっている。その背景にあるのは中国EVメーカーの急成長だ。その勢いは中国市場にとどまらず、日本をも揺るがす可能性が高い。2022年にテスラを抜いてEV販売台数世界一となったBYDは、2023年から日本での販売を始める。さらにEV界に革命を起こした激安の小型EVも日本市場参入が間近と噂されている。

 なぜ、中国EVは強いのか。その背景にあるのが「量が質に転化する」式の成長だ。

「昔はEVなんて絶対に買わないと思っていたのに…」

 2021年に世界で販売されたEV(プラグインハイブリッド車を含む)は660万台に達したが、その過半数にあたる333万台は中国市場で販売されたものである。そのうち約30万台は米テスラ社だが、残る300万台は大半が中国メーカー製だ。

出所:国際エネルギー機関統計をもとに筆者作成

 EVはまだ発展途上だけに量産を続けながら改善していくしかない。かつては欠陥だらけと揶揄されたテスラが品質を改善してきたように、中国メーカーも量産経験を重ねることで品質を高め、信頼を勝ち取ってきた。

「昔はEVなんて絶対に買わないと思っていたのに、気がついたら乗り換えてました」

 そう話すのは天津市在住のLさん(30代、女性)。酒造メーカーの営業マンとして働く彼女は大の車好きだ。

 働き出して最初に買った車は中国自動車メーカー・チェリーの小型車だった。もっとでかい車に乗りたいと買い換えたのが中国・長安汽車のSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)。この次は日系かドイツ系か、ともかく外資系のでかい車に乗りたいと公言していたのに、2021年に買い換えた車は中国メーカーのEVだった。