当時のEV業界への出資は「危なすぎて金は出せなかった」
「EV産業は補助金を浪費するだけのごくつぶし」との批判が強まるなか、政府も2020年末をもってEV補助金を終了する方針を発表。その記者会見では「一部の企業は補助金依存症に陥っている」と強く批判するほどで、EV産業育成は失敗してしまったとのムードが濃厚だった。
民間EVベンチャーの倒産も続いた。中国版テスラとも呼ばれる新興EVメーカーのNIO(蔚来汽車)ですら、2018年のIPO(新規株式公開)後に株は売り込まれ、上場1年後には株価は8割下落、倒産寸前に追い込まれた。ある日系ベンチャーキャピタル関係者は「うちにも出資の打診が来たが、危なすぎて金は出せなかった」と話している。
“オワコン”ムードの大逆転は2020年後半。きっかけは…
と、もはやオワコンというムードがただよっていたのが一気に逆転したのが2020年後半のこと、突如としてEVが爆発的に売れ出した。2025年までに新車販売台数のうち20%をEVにするとの政府目標は、予定より3年早い今年に達成されることが確実である。
この革命的変化はEVが「仕方なく買う車」から「欲しいから買う車」へと劇的にポジションが変わったことに由来している。なぜ消費者マインドは一気に変わったのか?
テスラ株の高騰に代表される世界的なEV人気、習近平国家主席が大号令を下した中国の脱炭素政策が追い風になったが、それだけではないという。何人かの中国自動車業界関係者に話を聞いたところ、「EVのユーザー体験の良さが認められたためではないか」と推測していた。
加速性能、充実のエンタメ、静かな車内…「実際に乗らないとEVの良さはわかりません」
「実際に乗らないとEVの良さはわかりません」と話すのは、重慶市在住のHさん(40代、男性)。周囲の友人が続々とEVを購入し自慢話を聞かされるなか、自分も購入したという。
「まず、運転体験が違います。EVはガソリン車よりも加速性能が高く、コントロールしやすい。思った通りに動くので、追い抜きや車線変更も楽ですし、何より運転していて楽しい」(Hさん)