日本再建の鮮烈なビジョンを打ち出した『1%の革命』が話題の安野貴博さんと、『世界一流エンジニアの思考法』の牛尾剛さんの初対談が実現。気鋭のAIエンジニアと米マイクロソフトのエンジニアが語る、沈む日本への処方箋とは?
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いま日本にいい風が吹いてきている
牛尾 新著の『1%の革命』、マジで最高でした。僕は政治にあまり関心ないんですが、日本が急激にシュリンクして超高齢社会になるなかで、「こうすれば明るい未来のレールがしける」という明晰なビジョンを示していて衝撃的でした。しかも、全部実現可能なことしか書いてない。人口減で資源もない日本が生き残る道はこれしかないと、大いにうなずく施策ばかりでした。
安野 ありがとうございます。実現可能なビジョン、というのは徹底的にこだわった部分なので、そうおっしゃって頂けてすごく嬉しいです。本に書いた政策を全部実行したとしても予算は500億円程度。東京都の年間予算8兆円のうちの、わずか1%以下で取り組めるものです。
牛尾 現実味があるのが素晴らしいんですね。日本が世界に勝てる部分ってもうあまりないけれど、今ちょっといい風が吹いてきています。ラッキーなことにマイクロソフトリサーチ(MSR)が東京にやってきたりとか、OpenAIが東京に支店つくったりして。AI産業はまだ決定打がない状況なので、安野さんのいう「イノベーション産業を起爆剤にする」戦略を実行するには、まさに今だと思います。
安野 情報科学の分野ではこの30年日本はずっと負け続けてきたけれど、今もしかしたら日本もいけるんじゃないかというフェーズになってきましたよね。AIはまだゲームのルールが決まってないので、日本がしっかりと成長戦略を描いて注力するインセンティブがある。
長年IT業界にいてはじめて感じた危機感
牛尾 最近よく感じるのが、ソフトウエアのテクノロジーが重要だという認識が社会的に広まりつつも、まだまだ一般の人はピンと来ていないということ。エンジニアの肌感覚では、今回のAIばかりは早急に対策を打たねば「ヤバい」。
長年IT業界にいて、過去に何度か「もうプログラマーはリプレイスされるぞ」と言われてきましたが、一度も信じたことありません。でも昨今のChatGPTやGeminiの進化には、強い危機感を覚えています。
安野 そのアメリカでの空気感、ぜひ知りたいです。
牛尾 例えば、僕の所属するクラウドサービスの開発部門は、元来日々の地道な改善が評価される部署で、「君のロールはここね」と期待される枠組みも明確です。ところが、そんな部署にまで「AIを本気でやれ」と上から通達がきた。
僕はたまたま以前からMSRの友人とAI開発に取り組んできたから、周りに教育する役割を担っていたのですが、AIでオートメイトできる範囲が半端ないので、プログラミングのパラダイムシフトが起きているのは事実です。経営層からもAIに賭ける意思がひしひしと伝わってきます。