「根回し」「上の説得」……ものすごく無駄です
安野 ひとつ牛尾さんにお聞きしたかったのが、新しい挑戦でイノベーションをといったときに、組織の平均値を上げるアプローチと、トップオブトップが牽引する方法の2つがあると思うのですが、マイクロソフトではいかがですか?
牛尾 トップオブトップの人たちはスーパー頭がいいですが、それでも頭脳の違いって数倍はあるけれど100倍は変わらない。一部の人の賢さでイノベーションが生まれるというよりは、経験がスピーディに積み重ねられる環境か、チャレンジして失敗しても許される環境か、に尽きると思います。
例えばマイクロソフトなら、世界中の人がアクセスするような難度の高いサービスをつくったり、他社より何十年か先に進んだような研究だってできます。どんどん経験を積める機会があるし、なにか挑戦しようとしたときに邪魔する「お偉いさん」が一切いない。日本だとなにかちょっと新しいことに取り組むにも、社内の「根回し」やら「上の説得」が必要でしょ。あれ、ものすごく無駄なんですよね。
難しいことにチャレンジするから失敗があり、失敗から学ぶからこそブレイクスルーが生まれる。数年前、僕が全身全霊をかけて取り組んだあるHTTPのスケーリング(データ量に応じた処理能力の調整)は結局「今のプラットフォームではできない」という失敗で終わった。でも後年プラットフォーム側を作り直したら、「失敗」の研究から生まれたアルゴリズムが使えるようになって、スループット(データ転送量)40倍のパフォーマンスを叩き出せたんです。
安野 おお、すごい!
牛尾 だから失敗はあくまでもプロセス、そのフィードバックがあってこそイノベーティブなものが生まれるんです。そのチャレンジを高速で回しているだけとも言える。
失敗を恐れずチャレンジする社会に
安野 世界のプラットフォーマーと比して、日本は難しい技術的チャンレンジをしてこなかったし、新しい挑戦を会社の利益と紐づけられなかった構造が30年続いてしまったことを痛感します。
「経験を積める環境」という意味では、海外の大手や先進的なスタートアップの日本への積極的な誘致はひとつのカンフル剤になりますし、日本の会社がもっと海外に出て技術的な交流がしやすくなる仕組み作りも必要だと感じました。今後、AIの進化によって日本語というランゲージバリアが解消できる可能性が高いので、これをチャンスにしない手はないですね。
牛尾 安野さんの日本再建プラン、たった500億でしょ。政府も行政もやらない理由を並べてないで、全部この本の通りにやってみたらいいんですよ。間違いなく日本が活気づくから。というか、安野さんに日本の総理大臣になってほしい。
いまアメリカではトランプ大統領がイーロン・マスクを起用して、凄まじい賛否両論を巻き起こしながら、ドラスティックに社会を変化させています。僕は正直トランプ支持ではないけれど、それでも任期のあいだは思い切りやってトップのプランを実現したらいいと思う。失敗もいろいろ出てくると思うけど、それを受けて次の4年誰を選ぶかを決めればいいだけの話だし。それは停滞して動かない社会より何倍も素晴らしいから。
安野 今日は失敗を恐れず挑戦していく勇気が湧いてくるお話で、非常に刺激的でした。
牛尾 こちらこそありがとうございました。今後の活躍も心から応援しています!
