国会議員の方々と話しても、全然わかってなくて…

安野 僕もAIは驚異的にすべてを変え得る技術だと思っていて、いま大きな変化の「直前期」にいると思います。AIは今後とくにホワイトワーカーの仕事を激変させていくのは必至です。

 そんな大変化を前提に、会社の事業の意思決定や、国の未来戦略の決定をすべき局面に来ていると思います。そもそもテクノロジーをどう使うかが、会社の根本的な生産性や国家のGDPに大きく寄与する時代です。アメリカではGAFAMのパフォーマンスが異常に高くてS&P500も引き上げているわけで、テクノロジーへの理解があらゆる分野の成長の鍵を握っている。

安野貴博氏

 でも、国会議員の方々と話しても、みなさんキャッチアップしようとはされていますが、正直全然わかってないんですよね。

ADVERTISEMENT

牛尾 政府の意思決定の場面でも、テクノロジーを深く理解している人がコミットメントしないと国家間のグローバル競争に負けてしまうんじゃないでしょうか。だって今、世界で勝っている企業はみんな、エンジニアリングのセンスに秀でた人がトップ層に入って意思決定をしてますから。

 シンプルに、エンジニアの考え方を取り入れるだけで物事の生産性を高めて、みんなをハッピーにできることってすごく多いんですよね。

エンジニアの考え方は、国家や行政の運営にも適用できる

安野 まさにそうで、牛尾さんの『世界一流エンジニアの思考法』に出てくる、「早く失敗せよ」(Fail Fast)、「必ず仮説を立ててから手を動かす」など完全に同感です。自分が実践していても意識していなかった方法論が言語化されていてすごく学びになりました。

 普通のビジネスパーソンにとっても、仮説ベースでの検証法とか、不確実性の高い事案への向き合い方とか、アジャイル型の開発で「小さな実装→改善を高速で繰り返す」とか、流動性の高い現代の環境においてエンジニアの考え方は普遍的に重要です。

 それは国家運営や行政運営に関しても、考え方としてそのまま適用できる場面が沢山あると思います。

牛尾 ご著作でも、「サンドボックス」――限定的なテスト環境をまずつくるという考え方で、行政の特区制度や夜間・オンライン診療の先行実施などを提言されてましたね。「狭く、小さく、早く」始めて、失敗してもいいから早くフィードバックを得るほうがはるかに有益だと僕も思います。

安野 失敗できる環境の重要性を牛尾さんは書かれていますが、行政とか政治の世界って、失敗許容度が他の分野と比べて著しく低い。でも、逆説的に「失敗許容度」を上げたほうがかえって社会の効率は良くなる気がします。

牛尾 日本ではチャレンジして失敗したら、責任者が謝罪して降格させられたり外されたりするけど、ものすごくナンセンス。失敗という経験にこそ大きな学びが凝縮されているのに。失敗せずにうまく回そうと思ったら、日々無難なことやるしかないわけで、日本でイノベーションが生まれにくいのは、そのあたりに根本要因がある気がします。