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“描けないものはない”筆さばき…稀代の浮世絵師・葛飾北斎が描いた百人一首

“描けないものはない”筆さばき…稀代の浮世絵師・葛飾北斎が描いた百人一首

2023/01/03
note

 絵解きとしてわかりやすくおもしろいうえに、一枚の絵としても華やかさと艶っぽさを備えた見事な出来といえよう。

葛飾北斎「百人一首うはかゑとき 小野の小町」すみだ北斎美術館蔵(同作展示は1月22日まで)

在原業平の名歌を自在に読み解く

「百人一首乳母かゑとき」シリーズから、「在原業平」も見てみよう。元歌はこちら。

  千早振神代もきかす龍田川からくれなゐに水くゝるとは

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 神の代にさかのぼってもこんなのは聞いたこともない、竜田川が唐紅色に水を括り染めにするだなんて、との意味である。

 竜田川は奈良県を流れ、古くから紅葉の名所として知られる。北斎はこの歌を絵解きするにあたって、場所はそのままとしたが時代を操作した。在原業平の生きた平安時代から、自身の生きた江戸時代へと舞台を移し、紅葉狩りに興じる庶民らを捉えた風俗画としたのだ。

 くわえて中央が盛り上がった橋のかたちと、強調された水流のうねりを呼応させ、画面にリズムをもたらすことも忘れない。さすがは当代一の売れっ子絵師、人の目を飽きさせない工夫がたっぷりである。

葛飾北斎「百人一首乳母か絵説 在原業平」すみだ北斎美術館蔵(同作展示は1月24日〜)

 こうして百人一首関連の作品を見てみると、この江戸時代を代表する「画面上のエンターテイナー」北斎は、ふたつの長所を併せ持っていたことが知れる。ひとつは、純粋なる画力。描けないものはないと言われるほど万物を描き分け、他の者を寄せ付けぬ筆さばきが、今展出品作からも大いに味わえる。

 もうひとつは、自由自在な発想力。何らかのテーマが提示されるやいなや、博識ぶりと想像力、また取材力を発揮してテーマをぐんぐん膨らませ、独自の物語を紡いでしまう力量を備えていたのだった。

 確かな技と豊かなイマジネーションが組み合わさって生まれ出る、日本美の最高峰を展覧会場でとくと味わってみよう。

 併せて常設展では、「冨嶽三十六景」シリーズをはじめ代表作の数々を、実物大高精細レプリカでじっくり眺められもする。新年らしく晴れやかな気分を満喫しに、出かけてみたい。

INFORMATION

北斎かける百人一首
2022年12月15日~2023年2月26日
すみだ北斎美術館
https://hokusai-museum.jp/

“描けないものはない”筆さばき…稀代の浮世絵師・葛飾北斎が描いた百人一首

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