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カウントダウンの瞬間……

 そして迎えたカウントダウンの瞬間。渋谷はまともに歩行することすら許されない状況になっていた。芋の子を洗うように人が集い、四方八方から体を押され、身動きが取れない。

 ©文藝春秋

「ヤバいヤバいちょっと諦めかけた!」

「これもう進めない? 進めないよね?」

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「いま何時?」

 筆者の身体を押し除ける人からそんな声が聞こえてくる。

「なんとか身動きの取れる場所に行かなければ……」

 そんなことを考えていると、時刻は既に2023年1月1日0時4分……。

子どもと共に渋谷を訪れている人の姿も目立った ©文藝春秋

 これだけの群衆が集まっているにもかかわらず、年越しの瞬間をカウントダウンすることはなかったわけだ。時刻を気にするほどの余裕すらない人の入り乱れようだったからだろうか。

 そして、午前1時を過ぎようとも、人流のほとんどはスクランブル交差点へと向かっており、「マジで海外の人ばっかだ……」「ヤバくない? ヤバくない?」などと口にする人らとすれ違う。

 規制のための柵によって、スクランブル交差点に集えなかったからなのか。年越しの瞬間それ自体に価値を見出していないからなのか……。理由はわからないものの、渋谷の夜は例年以上に長く続いていた。