原作のある作品を映像化することの意義
石川 僕は映画の勉強をポーランドの学校で学んだのですが、そこで舞台演出をよくやったんです。ヨーロッパの舞台って、オリジナルというより、チェーホフとかシェイクスピアとかを自分なりに解釈してクリエーションしていくというのが主流で、取り組み甲斐のある強度のあるテキストを役者と一緒に作っていくというのをたくさんやってきました。まずそこにテキストという土台があって組み立てていくので、自分の中で安心して深く入っていける。
もちろん自分でオリジナルを書いたりもするのですが、やっぱり餅は餅屋で、そこに強い物語を書く人がいて、それが魅力的なら、その物語の映像化にみんなで取り組むというのは、十分やりがいのあることだなって思ってます。
岸田 こんなにいい映画があるなら、家でサブスクを観ている場合じゃないとまで思ってしまいました。お金を払って映画館に行くということをしないと、いい映画に出会えないなと。
石川さんが原作があるものを映画化するとき、なにが決め手になるのでしょうか?
石川 小説を送ってもらって、「どうですか?」って聞いていただけることもけっこうあるのですが、「本当にやりたい」と思うもの以外は断ってしまうことも多いです。「あいつは全然オファーを受けない」って言われているかも(笑)。自分が100%これだと思えるかどうか、作家さんの言おうとしてることに、「すごくわかるな」って気持ちがシンクロするかどうかで、監督したいなって思ったりしますね。
岸田 出発点が「これは売れる!」じゃないんですね(笑)。すごいなあ。
作家にとって自分の小説は命みたいなもの
石川 売れるかどうかは、プロデューサーに考えてもらって(笑)。
岸田 私、自分と同じような作家が「ある男」を観た時に、救いになると思ったんですよ。
この世界に入って、映像化って難しいんだって聞いたりもしていたんです。作家の言葉で語られたものを、同じ感情を表現しながら監督が知っている言葉で翻訳するということがいかに難しいのかということを感じていた時に「ある男」に出会えたので、この作品は日本の若いクリエイターの希望だって思ったんです。こんな風に自分の作品を映像化してもらえたら、自分の心と対話できた気持ちになるんじゃないかなって。
石川 そう言ってもらえると有難いです。作家さんにとって自分の小説って命みたいなものだと思うんです。自分も同じクリエイターなので、自分の作った作品を手放すってどういうことかっていうのは少なからず分かる気がして、なのでそれに対して最大限のリスペクトと言うか、どんな読者にも負けないぞと思ってやっています。