石川 ですよね(笑)。監督って何してるって言えばいいんだろう。これは、オブザーバー参加の秋田プロデューサーうまく説明してもらえませんか?
石川監督の作品はすごく自然な演技が多いといわれるワケ
秋田プロデューサー 監督は、基本的には現場を全部ディレクションする役割で、美術のセットも含めてすべてのクリエイティブをコントロールするのが監督のお仕事です。映っているすべての画に監督が関与している。
監督にも個性があって、俳優の細かな動きまで決めてしまうタイプの方もいれば、石川監督のように、狙いだけ決めておいて、細かい部分は現場の役者さんの呼吸に委ねる方もいるんです。石川監督は、俳優さんとコミュニケーションしながら、動きを作っていくタイプですね。石川作品はすごく自然な演技が多いといわれるのは、このあたりに要因があるように思います。無理やりコントロールしていないところが特徴かなと。
石川 そう言いながらも、事前に決めなくてはいけないものもあって。
原作にもたくさんファンがいらっしゃると思うのですが、僕も誰よりも原作を読み込んでいるという自負は持っています。主人公のコートの色とか、ソファーの配置、台詞を言う時のタイミングなどもコントロールして作っていくというのが映画化なので。それが読み方として正しいかどうかはわからないんですけどね。すごく変な読み方をしているかもしれないんですけど、そうすることでイメージできていくこともある。
ただ、不思議なのはそこに役者さんが入ると、いくら準備しても全部変わるんですよね。そこで生まれるアイデアを盛り込んでいくと、よりリアルになる。僕は自分が作りこんだものよりも、生身の人が感じたものがシーンの中に出てくると、より感情移入できるものになると思っているんです。
絶妙な下手さの絵を何度もオーディション
岸田 自分の感情とかを再現したものを準備して、さらにそれを超えていく瞬間があるということですもんね。
石川 そういうときは、ぞくっとするというか、「あ! これだ!」って、感じる瞬間があるんですよね。
岸田 スケッチブックの絵のシーンも、原作では「無垢な世界に感動した」というような描写なんですけど、たしかに映像にするにはそんな絵はめっちゃ難しいですよね(笑)。
石川 あれは、本当に難しくて……。上手すぎてもいけないし、なんというか絶妙な上手さというか下手さというか。でも、映画の美術さんって美大を出ているような人ばっかりだから、塩梅が難しくて。微妙に下手に書いてもらう必要があったので、絵のオーディションを何回もしました。
絵に関していうと、死刑囚の絵画展の作品も実は美術さんに書いてもらっています。年末年始に、死刑囚の気持ちになって絵を描いてきてくださいという、酷い宿題をだしたんですよね(笑)。
岸田 私が担当の編集者さんから言われて、最近ずっと悩んでいたのは、作品を書くときに「演出のために、感情を作ってはいけません」ということ。ここで人を泣かせよう、もらい泣きしてくれる人もつくろうみたいな書き方だとすごく不自然だ、と言われたんですね。