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 物語のおもしろさとか、設定の面白さだけでは読者はついてこれなくて、人間のおもしろさ、リアルな行動と感情が伴っているから、物語が進むにつれて、そこにのめり込んでいくんだ、と言われたんですね。難しいことを言うなと思っていたんですけど、お話を伺って、石川さんの中では人間がどう生きているかということができあがっていたんですね。

冒頭をしっかり感じれば、この映画の良さが分かる

石川 岸田さんの文章も読ませていただいて、些細なことでも長文でびっしり書いていらっしゃったりすると思うんですけど、映画でもわりと同じようなことをしているなって思います。

 冒頭のあのシーンって、あの長さがあるからこそ伝わるものってあると思うんです。でも、最近の若い世代の方たちって、最初の2分で何も起きないと脱落していくし、映画も平気で2倍速で観るじゃないですか。映画館で強制的に椅子に座らせられているからこそできるものはあって、そういう意味で、映画ってすごく贅沢な時間の使い方ができるなって思います。

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©2022「ある男」製作委員会

岸田 すごい分かります。映画を見慣れてない人が、韓国ドラマの第1話目のような、ものすごい衝撃のものを期待して「ある男」を観にいくと、躓く人っていると思うんです。でも、とにかく冒頭の文房具屋のシーンをちゃんと観て感じて!って思います。その冒頭をしっかり感じれば、この映画の良さが分かるからって。

 私はネットから出てきた書き手なので、事細かに、誰にでもわかってもらえるように説明する癖がある。でも、この映画のシーンって、説明していないのに、説明されたように感情が伝わってくるんです。そういうものを書きたい、それが本当はやりたいことなんです!!

石川 そうですね。だから、妻夫木さんがドーンと出てくるまで、じっと座って観ていてくれればと思うんですけどね。

©2022「ある男」製作委員会

「こういうものが日本でちゃんと作れるんですよ」

岸田 私はブログがきっかけで作家になったので、とにかく短く、すぐわかるように書く。ブログはすぐ読めるように書く、どれだけ早く人を惹きつけられるか、っていう世界でもあるのですが、それって不幸せでもあると思うんです。人間の感情がそんなに早く伝わるわけがないし、自分に重ねる暇もないじゃないですか。

 今の日本の世の中もそのような流れがあったりして、ただ「ある男」を観た時に、こういうものが日本でちゃんと作れるんですよっていうことを、私や私より若い世代にも知ってもらいたいし、私自身もこれを目指さないといけないんだよって思ったんです。

 映画祭で受賞したときも、喜びにプラスして、「私、すごいって言ってたやん!」っていう、私の中の情熱が報われました(笑)。

 今の若い世代って、この世に答えがあるものを自分で悩むっていうことがそもそもストレスなのかなと思うんですけど、個人的にはそれを映画や作品に求めたらダメだと思っていて。自分自身の心を動かすには時間も必要で、石川さんの他の作品を観たりしても、監督は時間の魔術師やなって思っています。

 原作のある作品を映像化することの意義ってどこにあると思いますか?