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《年収上限を1億円に?》成田悠輔と斎藤幸平が示した「欲望と嫉妬」の資本主義からの脱出口

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 逆にいうと、人々の過去の行動という、とてもリッチな情報が、お金で測定可能な資産として、ごく単純化されているわけです。この貨幣による価値の単純化が、人間の欲望の現れ方をも単純化させてしまっているんじゃないかという仮説を考えているんです。

斎藤 なるほど。

成田 それを乗り越えるためには、貨幣による単純化という情報の劣化を起こさないような経済システムを作るしかないんじゃないか。

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貨幣経済からアルゴリズム経済へ

成田 過去に誰に何をしたか、どんなものを作ったか、どんなサービスを提供してきたかという人びとの行動履歴を、貨幣を使わずに扱うことによって、人びとが次に何を手に入れることができるのか、何をしていいのかが直接決まるような経済システムも考えられるのではないでしょうか。

初めて直接の対面を果たした二人

斎藤 ただ、現代のGAFAによるプライバシーの問題や、中国の信用スコアの話を聞く限りでは懸念も大きいですよね。個人のすべての活動が記録されるということが資本主義の枠内で実現されてしまうと、むしろ一部の人たちにのみ有利に機能して、多くの人たちはより隷属化していく恐れがあります

 やはり、そこでも資本主義というものに根本的な変容を強いていく枠組みが必要じゃないでしょうか。

成田 まったくそうだと思います。具体的な問題としては、経済指標の再デザインの仕組みをつくっているのが、現状では全部特定の独占民間企業がやっていることですね。

 中国の信用スコアの仕組みを提供しているのも民間企業です。仕組みの中身を外部の人間がほぼ知ることができないということは問題で、これは根本的に変えないといけない。

斎藤 成田さんは著書のなかでも、アルゴリズムが私企業に独占されている状況では不十分だと書かれていますよね。

 ここを突き詰めていけば、成田さんの言う「無意識データ民主主義」、あるいは貨幣のない資本主義というものは、必然的にデータアルゴリズムの解体/民主化、あるいは企業がデータを独占していない状態を要求する点で、ある種のコミュニズムを前提とするんじゃないでしょうか。