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「私に芝居を書いてほしい」と言われ…若手劇作家が高畑充希のために“奇跡の子役”の役を書いたワケ

根本宗子(劇作家、演出家)――クローズアップ

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「高畑充希ちゃんから、『私に芝居を書いてほしい』と言われたのは4、5年前。今回、満を持しての公演です」

 若手劇作家で演出家の根本宗子さんが脚本・演出を手がけた新作舞台「宝飾時計」が、池袋の東京芸術劇場プレイハウスで公演中だ。主演は女優の高畑充希、ほかに成田凌や小池栄子らが出演。高畑が歌うテーマ曲「青春の続き」を椎名林檎が書き下ろした。

根本宗子さん

「充希ちゃんとは同世代で、お互い若い頃から演劇をやっていたし、演劇が大好きなのも同じ。こんな人に出会える機会も、一緒に舞台ができる機会もめったにないので、とてもうれしく思っています」

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 根本さんは、中高生の頃に演劇に魅せられ、演劇や映画・俳優養成の専門学校へ。19歳で劇団を旗揚げし、女優として自身も舞台に立ちながら作・演出を手掛けてきた。

「シンプルに演劇が大好き。劇場で演劇の熱に触れる面白さが、より多くの人たちの生活の中に加わりますように! と常に願っています」

 一方、高畑充希も舞台女優を目指し、中学生の時にデビュー。2007年からミュージカル『ピーターパン』の主役を6年間務めた。

 今回、高畑が演じるのは、“奇跡の子役”と呼ばれ、同じ舞台の主役を19年間務めた女優・松谷ゆりかだ。30歳になった彼女は、公演20周年記念のイベントに参加することに。そこで懐かしい共演者たちと再会して……。

「完全なあて書きですが、充希ちゃんの経歴に寄せたわけではありません。純粋に、やってみてほしい役と託したい想いを書きました」

 劇中では、子ども時代と現在を中心に、複数の時間軸が交錯しながら展開していく。そのすべてのゆりかを、現在31歳の高畑が演じる。

「そのほか演劇ならではの表現をいろいろ盛り込みました。舞台はお客様の想像力を借りて見せる芸術。それを味わってほしいと思っています」

 昨年、初の長編小説『今、出来る、精一杯。』を上梓した根本さん。映画『もっと超越した所へ。』で原作・脚本を手掛けるなど活躍の場を広げている。

「この2作は、私が20代の頃に書いた舞台がもとになっているんですが、今とは少し考えていることが違っていて。当時は、互いに言葉を尽くしてわかりあうことこそ正義だと信じていました」

 しかし、年齢を重ねるにつれ、わかりあえない人とのほうが居心地がいい瞬間があることや、長く一緒に居やすいことを実感するようになった。

「じゃあ、今の私が書きたいものは? 小説や映画で私を知ってくれた人たちを劇場に呼んで伝えたいことって? と、改めて考えたんです」

 そして見つけたのが、誰かのために生きること、そういう人生選択のありようだった。

「30歳という、周りが結婚や出産をして家族を築いていくことも増える年齢だからこそ、特に浮かび上がるテーマだと思っています。ゆりかのとった選択を、ぜひ劇場で見届けてください」

ねもとしゅうこ/1989年東京都生まれ。19歳で、劇団「月刊『根本宗子』」を旗揚げ。自身も舞台に立ちながら全公演の作・演出を手がける。2016年から4度、岸田國士戯曲賞最終候補作にノミネート。22年には、文化庁メディア芸術祭新人賞を受賞。さらに『今、出来る、精一杯。』で小説家としてもデビューした。

INFORMATION

舞台「宝飾時計」
東京公演は1月29日まで。その後、大阪、佐賀(鳥栖)、愛知(東海)、長野(上田)で公演予定
https://horipro-stage.jp/stage/houshokudokei2023/

「私に芝居を書いてほしい」と言われ…若手劇作家が高畑充希のために“奇跡の子役”の役を書いたワケ

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