演技の助けになった「ト書き」の存在
──足立慎吾監督も、その生っぽさを重視されたとおっしゃっています。
安済 そうですね。足立監督や、音響監督の吉田(光平)さんからも、明るくて強い心を持った千束が、自由に、会話をすることを楽しんでいる感覚で話してもらいたい、と言っていただいていました。違和感のあるセリフは変えてもらってかまわないから、と。
若山 たきなの場合は、かっちりとした性格が言葉に表われる部分があると思っていたので、セリフなどを変えるというよりは、ふとしたところで素が出るような感覚で演じるようにしていました。そうすることで生っぽさが出ればいいな、と思っていましたね。
──たとえば、アドリブで変えたセリフとかで覚えているシーンはありますか?
安済 最初は1話の「リコリコへようこそー、イヒヒ!」ですね。台本には笑うとは書いていなかったんです。でも「たきなが来てくれた、うれしい!」という気持ちだったので、笑いたくなって笑いのアドリブを入れました。
若山 あとで映像を見たら、千束が笑った姿になってましたね(笑)。
安済 そう! 芝居に合わせて描いてくださったんです! そもそも台本が、普段の会話のような、綺麗すぎない言葉で書かれていたので、自然な会話になったり、アドリブじゃないのにアドリブだと思われるライブ感が出たんだと思います!
若山 あと、『リコリコ』が特徴的なのは、台本に心境の変化がわかるようなト書きがあったことなんです。たとえば、7話の「BAR Forbidden」でヨシさんとミカの密会を追った帰り際、たきながヨシさんに遠回しに嫌なことを言われるじゃないですか。
安済 「期待してるよ、たきなちゃん」って(笑)。
若山 それです(笑)。そこで、ヨシさんを見つめるたきなはどういう感情なのか、ということが「こいつ絶対悪いやつだ」みたいに口語体で書かれているんですよ。私の経験上、何百カットある中の数カットでこういったト書きが入ることはあっても、ほぼすべてに入っていたのは、かなり珍しいです。
安済 この作品は私たちにも先の読めない展開だったので、心情の流れを把握する際、ト書きに救われたところがあります。
若山 私も救われました!
安済 あとで足立監督に聞いたら、あのト書きは本来作画班の方々に表情を伝えるための言葉だったみたいですね。ご本人も、役者に渡す台本にも反映されていてビックリした、って(笑)。
若山 監督、『リコリコラジオ』でもおっしゃっていましたね(笑)。