ジブリ映画『もののけ姫』(1997年)が8月13日に「金曜ロードショー」で放送される。17歳のアシタカを演じた俳優・松田洋治さん(53)は、当初主人公であることを「知らなかったし、考えてもいなかった」まま、声の録音に臨んだという。室町時代を描いた『もののけ姫』で、アシタカの凛とした佇まいが生まれるまでの“物語”について伺った。(全3回の1回目/#2#3に続く)

松田洋治さん ©末永裕樹/文藝春秋

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アシタカが主人公であることも「知らなかった」

――アシタカ役は、確定状態でのオファーだったのでしょうか?

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松田 『風の谷のナウシカ』(84)でアスベル役を演じたからオファーされたとは思います。ただ、当時の段階で『風の谷のナウシカ』から10年以上が経過していたので、僕の声がふさわしいかどうか確認するためにひとまず声を録音して絵に当てて確認をしたいと。それでスタジオに行って録音をする作業があったようなんです。

 でも、確認してダメだったという可能性もありえたわけですよね。そこで事務所は、僕に気を使ったのか「宮崎駿監督の新作のオーディションがある」と伝えていました。それを素直に捉え、僕もキャストのひとりとしてのオーディションという認識で臨んだんですよ。

――アシタカが主人公であることも知らなかった。

松田 知らなかったし、考えてもいなかったです。他に受けている人が見当たらなかったけど、ひとりずつ時間をずらしてオーディションしているのかなと思ったくらいで。アシタカという少年のキャラクターや主人公であることを録音演出の若林(和弘)監督から説明してもらって、「ちょっと録ってみましょう」ということになりました。でも、僕としてはあくまでサンプルの素材として、主人公の役柄を使ってオーディションをするのだなと解釈して、アシタカのセリフを録音したんです。それが96年の秋ぐらいだと思います。

『もののけ姫』より。松田さんが演じた主人公・アシタカ

劇場の特報を見たファンから「すごいですね」

――結果の連絡はすぐに?

松田 最近はそうでもないですけど、昔のオーディションは受かったら連絡が来るものがほとんどで。つまり、落ちた人にわざわざ「落ちましたよ」と連絡しないことが多かったんです。僕は通常のオーディションだと思っていたし、事務所からも連絡がないものだから、「ああ、ダメだったんだな」と。実際には声を確認して「松田洋治で大丈夫」ということにはなっていたらしいんですが(笑)。

 97年の正月明けでしたね。当時あったパソコン通信・ニフティ「フォーラム」で、一般の方から「宮崎駿監督の新作で主演をおやりになるんですね。すごいですね」というメッセージをいただいて。正月明けに劇場で特報が出て、それを観たファンの方からの連絡によって僕は事実を知ったわけなんですよ。しかも特報で僕の声を聞いたというけど、アフレコなんかしていないじゃないですか。まったく意味がわからないから事務所に聞いたら「そういえば、気を使ってオーディションなんて言い方をしちゃってたな。悪かった、悪かった」って(笑)。特報の音声は、僕がオーディションと思い込んでいた“確認”の時に録ったものだったようです。その時に初めて、主人公をやることをふくめてすべてを知ったんですよ。

『もののけ姫』より。石田ゆり子さんがサンを演じた

――でも、アシタカが主人公であることは、“確認”時に説明されていたわけですよね?

松田 説明は受けていましたけど、タイトルは『もののけ姫』ですから。姫にあたる主人公もいる話だと考えていたわけですよ。だけど、台本をいただいて読んでいったらアシタカが純然たる主人公、完全にアシタカがメインになっているお話だったので驚いたというか。さらに、次々と発表されていく他のキャストの方々のお名前を見て「いったい、どういうことなんだろう?」と。