大学時代は落ちこぼれ。卒業後、警察官や団体職員の仕事に就くも、組織になじめず数年で退職……。そんな青年が「この仕事ならのし上がっていける」と出会った天職が、声優だった。
声優・若本規夫さん(77)が、偶然のようなチャンスをつかみ続け、国民的アニメ『サザエさん』のアナゴ役に選ばれるまでの道のりについて聞いた。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
◆◆◆
「何もない人生なんて、つまらない…」
――自伝『若本規夫のすべらない話』を読んで、若本さんが紆余曲折を経てブレイクに至ったお話には驚きました。
若本規夫さん(以下、若本) 誰でもそうだけど、人生っていうのは、バイオリズムとでもいうか低調になるときがあるよね。そこでくじけずに、目の前にあることをしっかりやっていくことで、また上昇してくるんだよね。
それをどう克服するかが人生。何もないなんてつまらない……。たとえば、良い家庭に生まれて、良い両親に恵まれ、良い学校を出て、良い会社に就職して、理想的な女性と結婚して、幸せに暮らして死にましたとさ、という映画を作りたいと思う? それを見たいと思う?
――思わないですね。
若本 なぜだか分からないけど生まれ落ちたときから必ず、人間には「壁」ってものがつきまとうんだ。それが、宿命なんだよね。その時点では苦しいけど、苦しい裏にすぐ夜明けがあるかもしれないんだ。この77年生きて振り返ってみると、幸せと不幸せがね、背中合わせというか……。
バーッと幸運があってね、ワーッと浮き立ってるときが怖い、仕組まれてるんだよね。誰が仕組んだか知らないけど、そのようになっている。それを受け入れて立ち向っていくしかない……。
僕も声優人生の中で、有頂天になったことがある。でも、ジェットコースターじゃないけど、バーンっと逆さまに落ちるんだよね。人生ってのは、みんなそんな境地を味わうようにできているようだね。
チャンスをつかむために必要なもの
――仕組まれているといえば、様々な職業を経て、若本さんが声優になったきっかけも運命的でしたね。
若本 そうだね。必然の偶然というかな。77年間生きていて、振り返ってみるとそういうことが無数にある……。
――チャンスをつかみとるための感度も重要だ、と。
若本 そう、自分はどういうふうにしたら道を作れるかを、絶えず求めてないと、チャンスは出てこないんだよね。それも、自分からワーッと求めていくんじゃなくて、自分が空っぽになる。
たとえば、僕は早稲田大学の法学部に行ったんだけど、法律の勉強なんか全然しなかった。最初の3か月でまったく興味ないとわかったから。出欠を取る授業だけ出て……。だから成績は良いわけない。
――そうだったんですね。