文春オンライン

2022/10/18

「下手だからダメ出しの嵐…」

若本 心地良くはないよ。けど、努力して技量が上がれば、この世界で食っていける。のし上がっていける。自分の力を育てて成長していけばいいわけで、組織にいるとそうはいかない……。自分が正しいと思ったことをやっても、どやされるわけだよ。それは腑に落ちない。いちいち「いかがでしょうか」という世界が合わない。そういう人は、人間10人いれば1人くらいはいるだろう。僕みたいな人間は、絶対に組織の一員になっちゃダメなんだ。

 まさに声優なんてのは、1人の世界だよ。今はナレーションとか、1人でする仕事が多いんだけど、ほかの声優と一緒の仕事の時でも、本来、人のことは関係ないんだよ。自分の技量を見せれば良い。そうすると、スタッフの人が、次も抜擢してくれる。ただ、自分の技量を高めていかないと難しい。そういう世界が合っていたんだろうね。

――現在も続くレギュラーである『サザエさん』のアナゴ役は、30代から担当していると伺いました。

若本 そうそう。あれは僕が望んでやったわけじゃないんだよね。たまたまアナゴ役が空いて、あるディレクターが僕に興味を持ってくれて、声をかけてくれた。

最初は戸惑いを覚えたアナゴ役(フジテレビ『サザエさん』公式ホームページより)

――若本さんは、2代目だったんですよね。

若本 うん。ただ、最初は「あの顔はできない」と思ったんだけどね。

 何十年も「違うな、違うな」と思いながらやってきたんだけど、40年近くやって、ようやくこの5〜6年でアナゴという人間の芝居ができるようになった。以前はね、それらしくやってるだけ。雰囲気。あの重そうな唇に合わせて、しゃべっていただけなんだけど、今はもう完全に芝居でクリアになってるんじゃないかな……。

 今のアナゴは面白いと思うよ。役を完全に自分の中に取り入れているからね。だんだん技量がついてくると、役を自分の掌中に取り込むことができるわけ。そうなると、この仕事は面白いんだよね。

若本規夫のすべらない話

若本 規夫

主婦の友社

2022年3月25日 発売

 

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