実は、声優・若本規夫が初めて就いた職業は「警察官」だった。早稲田大学法学部を卒業後なぜ警察官に? そして、せっかく就いた職をわずか1年で辞めた理由とは?

 声優歴50年、大ベテラン・若本規夫の人生を綴った『若本規夫のすべらない話』より一部を抜粋。(全3回の2回目/#1#3を読む)

若本規夫はなぜ1年で警察官の職を辞したのか? 写真はイメージです ©iStock.com

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大学生・若本規夫の就活

 少林寺拳法に明け暮れて、あとは、住み込みで牛乳配達のバイトを2年半やった。会社員の初任給くらい稼いでいたな。このままそれで暮らせるかなと思うくらい。それもあって、4年生になってみんなが就活を始めた頃、僕は就職する気がなくて、大学院に行こうかと思っていた。で、10月になって、試験を受けた。そしたら、箸にも棒にもかからない。当然だよね。付け焼き刃で勉強したくらいじゃあね。

 面接で先生がこれまでの成績を見て、「きみ~、これじゃダメだよ」ってあっさり。じゃあ、どうしよう。とりあえず就職しなきゃいけないと。

 新聞広告で見つけた中堅の貿易会社を受けたら、1次、2次、3次と受かって、重役面接に呼ばれた。でも、そこで実際に働いている人たちの仕事ぶりを見たら、すっかりやる気がなくなってしまった。どう見ても面白そうには見えなくて、これは、一生やれないなと思ったんだよね。僕にはできないなと。だから、「ちょっとおなか痛いんで失礼します」と言って、帰っちゃった(笑)。

試験日その日に「警察官」に合格

 その足で、大学の就職部に行った。そしたら、「君、今まで何していたの。もう11月だよ」「なんか、面白い仕事ないですかね」「面白い仕事? あ、これ、行けるかな、後ろ見てごらん」

 振り返ったら、『大卒警視庁警察官大募集』って書いてあるポスターが張ってあった。それでただ「面白そう!」というだけで、即、警察学校に願書を書いて出した。ただのひらめき。それだけで決めたんだ。

 試験日に行ったら、まず身体検査、筆記試験、面接があって、パッパッパッとその場で合否を発表する。9時から始まって、夕方には合格していた。

 その後、身上調査をされて、2月に正式に合格。4月1日に警察学校に入校。そこから半年間、朝6時から夜10時まで宿舎に缶詰めで訓練と学科の毎日。剣道、柔道、教練……警察学校は苦労はなかった。少林寺で鍛えた体力を持っていたからね。

 こうして、あれよという間に、僕は警察官になった。

 それが一生続いていくように思えたが、そんな僕ではなかったね……。