声優歴50年の大ベテラン・若本規夫。山寺宏一、井上喜久子など同業者からも尊敬の眼差しで見られる同氏だが、そのキャリアは決して順風満帆だったわけではない。
40代後半のときに直面した「新規の依頼が来ない」という問題に、どう立ち向かったのか? 若本規夫の人生を綴った『若本規夫のすべらない話』より一部を抜粋。(全3回の3回目/#1、#2を読む)
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最初は戸惑いを覚えた「穴子役」
主流だった洋画の吹き替えのほかにも、だんだんアニメ、CMとコンスタントに仕事が増えていった。一つ一つの仕事にそりゃ一生懸命だったよ。吹き替えは場数を踏んでいるからなんとなく口が合うんだけど、アニメは最初、口を合わせるのに苦労した。セリフのスピードからして、やっぱり映画とは違うからね。
今も続いている『サザエさん』の穴子役は30代に入ってから始めた仕事。そのとき、たまたま穴子役が空いたんだよね。当時のディレクターが僕に興味を持ってくれてたみたいで、その後釜に僕を推してくれた。
でも、穴子といったら、あの顔でしょ?(笑)
最初は違和感があってね。というのは、それまで僕はわりと整った顔の役しかやってこなかったんだよ。だから、穴子の顔を見て、この顔、できるかな……って思って。
実際何年か苦労したよ。たらこ唇だから、発音を少し重い感じのセリフ回しにしたりしてね。今思えば最初の頃は芝居はできてなかった。雰囲気だけ出していた感じ。
自分でも手応えを感じたのは、吹き替えは『特捜班CI-5』、アニメは『トップをねらえ!』と『銀河英雄伝説』。
合ってたんだね。自分と役との共通項があった。『トップをねらえ!』のオオタ・コウイチロウもそう、熱血だからね。『CI-5』のボーディも、『銀河英雄伝説』のロイエンタールも合っていた。
だから穴子みたいに基本的にハマらない役っていうのは、やっぱりきついよね。でも、長い作品でレギュラーをやると、役のとらえ方が徐々にわかってくるから修練になる。
おかげで、これが穴子だ!というのが、スパーンと出せるようになった。