ふと気づいたら「新規の仕事の依頼がない」
26歳から声優を始めて、40代までは、売れっ子というほどでもないけれど、それなりに仕事が来ていた。23人いたスクールの同期も、一人消え二人消え、だんだんいなくなっているなかで、続けられているということは本当にありがたいことだった。
しかし、50歳になるちょっと前かな、47、8歳の頃。ふと気づいたら、仕事がレギュラーだけになっていた。新規の仕事の依頼がない。事務所に電話して聞いても、ラチが明かない……。
これはおかしい。あれっと思ったよ。人間、窮地に追い込まれると周りのせいにするんだよね。事務所が積極的に動いてないんじゃないかとか……前にも話したように事務所が仕事を取ってきてくれるわけじゃない……。じゃあ何でなんだろう。そう思って、自分の作品をさかのぼってずっと、観直してみた。いろんな角度から見た。視聴者目線、役者目線。そして、プロデューサー目線を意識して見てみた。
わかったのは、僕の演技は中心をよけて堂々巡りをしているということ。形はそこそこいいんだけど、形だけだった。だから、飽きられるんだなとわかった。中心を突いていない。もしくは、裏というものが出ていない。
人間は表だけで普段は過ごしている。ところが、裏へ回ると、「あのヤロー、ぶっ殺してやる!」とか、表には出せないようないろんな思いがあるじゃない? そういう裏がにじみ出るような、つまりは深みが感じられるような声作りをしなくてはいけない。
そのとき、声優になって25年がたっていた。でも、一回築き上げてきた形をすべて潰さなきゃいけないと思った。積み上げてきたものを壊すのは正直怖い。だけど、思い切って捨てなきゃダメだ。それで、僕は捨てた。
飽きられないために。声優を本業にするために。声で勝負する人間として生きるために。それには鍛錬が必要だと思った。僕は、一から自分を鍛え直すことにした。
50歳の決断だった。そしてこれが、新生・若本規夫の始まりだった。