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声優は「瞬間芸」
その頃の仕事ぶりは、だんだん手応えを感じるようになってはいたものの、自分としては本当に納得いってはいなかった。
ごまかしごまかしというか、この辺でやっておくか、こんな感じかな、というようなレベルだった。
だんだん経験も積んで、声に説得力があるから、それなりにはなるんだけど……。今から思えば、まだまだ未熟だった。
声優をやればやるほど、この仕事は深いと思っていたよ。
俳優は顔が出るじゃない。仕草もある。でも、声優は声だけ。声だけで、説得力のあるキャラクターをつくっていかなくちゃいけない。ここが難しい。
でも声優の仕事を辞めようとは思わなかった。ほかに行くところもないしね。ここでやるしかない、そう思って踏ん張っていた。
単にキレイにしゃべって、形だけ揃えて、どうだと言っても、それでは本当に満足いくものにはならない。それらしくしゃべるんじゃなくて、それにならなゃ……。
声に、語りに、その人の「裏」が出てこないと。だけど、そこに行くのがなかなか難しい。誰も教えてくれないからね。ディレクターだって先輩だって、教えられない。ダメ出しはできるんだけど、じゃあ、どうすればいいのかっていうことは誰も教えられない。
要求を聞きながら、批判を浴びながら、こうかな、こうかなって変えていって、試行錯誤して、もがきぬいて、自分なりの正解にたどり着く。
声優は瞬間芸。その瞬間に、これだっていう声が出せないとダメ。要求されて、1週間考えてきますっていうわけにはいかないからね。