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「僕は、法を執行する人間じゃない」声優・若本規夫がたった1年で警察官を辞めた事情

『若本規夫のすべらない話』より #2

2022/04/23
note

警察官を1年で辞めた理由

 警察官だったら、反則者は反則者として、絶対に許してはいけない。誰だって事情はあるんだ。それを同情していたらキリがない。

 でも、僕はどうしても人間を見てしまうんだな。その人の向こうにいる、家族の顔を想像してしまう。

 最近はテレビの警察密着ドキュメンタリー番組とかでナレーションをすることもあるけど、今の警察官は立派だと感心するよ。警察官時代の僕と全然違う。言葉遣いは丁寧だし、柔らかく対処する。でも違反については厳正に向き合う。徹底している。そういう人が向いているんだな。

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 僕は、法を執行する人間じゃないということが、巡査部長の説教を聞きながら、骨身にしみたんだ。

 それで、警察官を1年くらいで辞めた。

 今思えば、幾度となく人生を方向転換してきた。 高校のときの理系から文系に変えたのも、警察官を辞めたのも、一瞬の決断だった。

 人によっては、せっかく今まで頑張って続けてきたのに、せっかく合格して入れたのに、もったいない、もう少し頑張ろう、我慢しようと思うかもしれない。

 でもね、その道を続けるべき因子をもっていない人間が続けてもいいことはない。それは、執着だったり、意地だったり、自分のプライドかもしれない。

 自分が続けるべきか、やめるべきか。

 見極めるためには、自分の心に聴く。そうすれば、自然とわかってくる。

 人生というのは、自分を理解すること。

 自分自身を突き詰めること、これに尽きる。