「すべらな~~い、はなしぃ~~」。迫力のあるナレーションで、77歳の今も第一線で活躍を続ける声優・若本規夫さん。独特の語り口は「若本節」とも呼ばれ、『人志松本のすべらない話』や『ウワサのお客さま』など人気番組で愛され続けている。

 実は、そんな「若本節」は、呼吸法やヨガ、大道芸に至るまで、十数種類に及ぶ修行によって生まれた。40代後半で一度新規の依頼がなくなるといった停滞期を迎えたのを機に、一度それまでの自分を捨て、0からトレーニングに励んだ賜物だという。

「人間、60歳や70歳で引退したらもったいない」と語る若本さんは、人生の後半でいかに再ブレイクをつかんだのか。(全3回の2回目/#1#3を読む)

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日本で唯一の語り口「若本節」はいかにして作られたのか?(写真:シグマ・セブン提供)

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「あれ? なんか新規の仕事が来ないな…」

――40代後半のころ、新規の仕事が減った時期があったそうですね。

若本 そう。気づくと、スタッフやディレクターとかそういう人たちが遠のいていた……。飽きられる、というか。

 それは声優だけじゃなく、どんな業種でもあること。芸能界もそうだし、サラリーマンもそう。日々自己研鑽して、常に改革して前進していかないとね。

 僕も、47〜48歳で「あれ? なんか仕事が来ないな、レギュラーばっかりだな。おかしいな」という時が来た。それまで僕は、ナレーションの仕事は、ほとんどしなかったね。うちの事務所(シグマ・セブン)はナレーター王国なんだけど、そこに参入しようとは思ってなかったんだよね。

――そうだったんですね。

若本 なぜ新規の仕事が増えないのか、と自分の仕事ぶりをプロデューサー目線で見てくると、まわりを堂々巡りしているような、そういうパフォーマンス……をしていた。それらしくやっているだけ。だから飽きられていた。声に奥行きというか深みがなかったんだよね。

 それで、それまでの自分というものを捨てて、新しいものを取り入れようと決意して、いろんなところに訪ねて行った。言わば、武者修行。

――それが「若本節」につながる、トレーニングなんですね。

若本 そう。結局、声はどこから出るかというと肉体ですよ。まず、その身体を鍛えないとダメ。体の中の内層筋、呼吸筋。アウターマッスル、インナーマッスルも鍛えなきゃいけない。その両方が相まって、声優らしい柔軟な、しなやかな声が出る。

 自分の身体を自在に操れるように体を鍛えないとね。自分の足の裏から頭のてっぺんまで、全部使って声を出すことを目標に置いて、いろんなところへ出入りして、鍛えていったね。

――呼吸が大元にある、と。

若本 そう。呼吸を自由にコントロールして我がものにしていく。武道と一緒なんだよ。その後、今度はボイストレーニングで、その声をどういうふうに共鳴させていくか。

 CMのナレーションでも、クライアントにどんな要求をされても、その場でスムーズに要求された声を出せるようにしなきゃいけない。そのための身体、呼吸、声を鍛えあげていく。トレーニングを続けて5、6年して、ようやく少しずつ反応が出てきた。「最近の若本さん、声伸びてますよ」って言われるようになってね。

――「ガマの油売り」といった大道芸もやられていたとか。