「仕事がこない」と文句を言っているうちはダメ
――なるほど。
若本 強い気持ちで声や言葉、アドリブを発することができるか。今、目の前の表現に迷い始めたら負ける。堂々巡りのようなパフォーマンスもダメだね。中心を射抜いていかないと……。
自分のオリジナルが大事なんだよ。自分の何十年の生き様が出て来るような……。セリフやキャラを自分に引きずり込んでいかなきゃいけない。それは誰かの真似じゃダメなんだよ。
本当にその人しかできない仕事っていうのは、事務所が取ってきてくれるもんじゃない。向こうから「この人にやってほしい」と名指しでやってくる。何年経っても「なんだよ、仕事来ないじゃないか」って文句言っているんじゃダメなんだよね。
――オリジナルといえば、若本さんはアドリブをたくさん入れることでも有名です。
若本 僕のアドリブは、刑務所の塀の上を歩いていたとしたら、刑務所側にもシャバの側にも、どっちにも倒れないようにしてるんだよ。どちらかに行き過ぎると、顰蹙を買う。その限界ギリギリでやってる。
――昔、若本さんのナレーションがあまりにも怖すぎて、視聴者からクレームが入ったとか。
若本 そんなこともあったね(笑)。突き抜けていくというか、狂気がないとダメなんだよね。声優には狂気がないと、通り一遍の表現しかできない。僕は一歩間違えると、ものすごく下品な言葉の二歩手前ぐらいでかろうじて止まってるんだよね……。
――『秘密結社 鷹の爪』の映画でも、あまりに若本さんがセリフと違うことを言うので、役の名前が「ヨマーズ司令官」に変わったとか。OKなラインを狙っているんでしょうか?
若本 はははっ。うん、狙っていってるよ。たとえば、地上波のゴールデンだと、どこまでやれるかをちゃんと計算しないと。コメンテーターや出演者の顔ぶれや表情を見て「この人にこういう表現をすると、多分怒るだろうな」と思って、本MA(収録作業)のときに訂正したこともある。ちゃんとフォローをしないとね。だから、文句が来たってことは、ないんだよ。
――アドリブは、ある程度、事前に考えておくんですか?