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三木谷浩史「世界的経営者がいきなり“姿を消す”中国の怖さ。日本も油断してはならない」

『未来力』 #3

2023/01/30
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 ある中国の知人も、「最近では『金と名誉と地位を一度に求めてはいけない』といった軽口を叩けるような雰囲気は消えてしまった」と声を潜めていた。特に中国のアプリ等を利用したネット上のやり取りは、どこで盗聴されているか分からないという怖さがあるのだろう。

消えたアリババ創業者

 中国で成功したアントレプレナーたちは今、誰しもが「自分は大丈夫か」「できれば逃げ出したい」などと身の危険をひしひしと感じているに違いない。実際に、中国で最も成功した経営者の1人、アリババの創業者、ジャック・マー(馬雲)はあまり表に出なくなってきているようだ。

表舞台から突如消えたジャック・マー氏 ©getty

 ジャック・マーは1964年9月生まれ。1965年3月生まれの僕とは、日本で言えば、同級生だ。2007年に香港で上場して以降、凄まじい成長を遂げ、時価総額は一時、約8500億ドル(約95兆円)。日本で最も時価総額が大きいトヨタ自動車でも約40兆円だから、その倍以上になる。

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 しかし、2020年11月、アリババ傘下の金融会社アント・グループが上海と香港で上場する直前、報道によれば、彼は「忽然と」と言っていいような形で表舞台から姿を消したという。

 史上最大規模になるはずだったアント・グループの上場が中止に追い込まれた事実は、現地でビジネスをする人々にとって衝撃的だっただろう。彼らはこれを、中国政府の「金持ちは断固として許さない」というメッセージとして、受け止めたはずだ。

 そもそも、あらゆる情報をフラット化するインターネットというテクノロジーはオープンで自由な性質が強い。中国のIT起業家たちも根はやはりオープンで自由な人物が多く、だからこそ、共産党の価値観とはぶつかってしまう。中国政府としても、そうした思想を持つ経営者がこれ以上、国内で影響力を保持することを是が非でも避けたかったのだろう。

 この件を受けて、海外のアントレプレナーたちから「ミッキーは日本で良かったね」と口々に言われたことをよく覚えている。